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2006年03月04日

時間・記憶・他者

宗教倫理学会の公開講演会のために京都キャンパスプラザへ。
お題は「時間・記憶・他者」。
ダイヤリーには「センチネル・境界を守る者」とメモがあったので、おそらくそういう演題でやるつもりでいたのであろうが、「演題をお知らせください」というメールが来たときにそれを忘れていて、別の演題を思いついてついでに抄録まで書いてしまったようである。
まことにデタラメな講師である。
でも、それは『粗忽長屋』をやろうと思って寄席まで来たけど、楽屋入りしたら急に気が変わって『三枚起請』をやることになったという程度の違いに過ぎない。
どうせ、昨日見た映画の話から始まって、この二日三日思いついたことを話すわけであるから、どんな演題でも私の場合話す中身はほとんどいっしょなのである。
昨日見た映画は越後屋DVDの『ブロークバック・マウンテン』である。
その話を「マクラ」に振る。
ご存じのとおり、ワイオミングのカウボーイ二人の20年の愛の物語である。
西部劇映画が配偶者を得られずに死んだ男たちへの呪鎮の儀礼であることについては『映画の構造分析』所収の「アメリカン・ミソジニー」で前に論じたことがある。
カウボーイについての物語でつよく抑圧されていたのは、西部には数千人の黒人・アジア系のカウボーイが存在したという歴史的事実である。
カウボーイは当時もっとも人種障壁が低い職業であったのだから、そこに他の仕事に就けない解放奴隷の黒人たちやアジアからの移民たちが参入したのは当然のことである。
けれどもハリウッド映画はフロンティアの開拓に白人以外の人種が関与したということを認めなかった。
黒人のカウボーイをスクリーンで見るために、『シルバラード』(1985)のダニー・クローバーと『許されざる者』(1992)のモーガン・フリーマンまで、ハリウッドで西部劇映画が製作し始めてから75年もの時間待たなければならなかったのである。
しかし、それだけではなく、西部劇は「カウボーイ同士の愛」というありふれた事実についても完全黙秘を守ってきた。
実際には男女の人口比率が極端に歪んでおり、かつ生き延びるためには力強い支援者が必須であったフロンティアにおいて、男同士がステディ・パートナーとしてエロティックな結びつきを育んだことにすこしの不思議もない。
『リオ・ブラボー』のジョン・ウェインとディーン・マーチン。
『荒野の決闘』のヘンリー・フォンダとヴィクター・マチュア。
『トゥームストーン』のヴァル・キルマーとカート・ラッセル(このときのヴァル・キルマーの演技は『ブロークバック・マウンテン』のヒース・レジャーに強い影響を及ぼしている)。
町山智浩さんは『ブロークバック・マウンテン』をたいへん高く評価して、今年のアカデミー賞(明日だね)の大本命として監督賞、作品賞、オリジナル脚本賞、主演男優賞に個人的にノミネートしている。
町山さんによればこれは『真夜中のカウボーイ』以来、35年ぶりのカウボーイラブ映画。
以下、町山さんのブログから
オイラが『ブロークバック・マウンテン』をあまりに絶賛するので、「あいつはホモだ」なんて言われてるけど、
男はみんなホモなんだよ!
『スター・ウォーズ』C3-POとR2-D2だって
アナキンとオビワンだって
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケルJフォックスとドクだって
『トップガン』のマーヴェリック(トム・クルーズ)とアイスマン(ヴァル・キルマー)だって(ウチダ注:おおヴァル・キルマーは二度目のご指名だ)
『ジム・キャリーはMr.ダマー』のダムとダマーだって
『死霊のえじき』のゾンビと博士だって
『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスとモーガン・フリーマンだって
『ラスト・サムライ』のトムクル(まただ)とワタケンだって
ハルク・ホーガンとリック・フレアーだってデキてるんだ!
『チャーリーズ・エンジェル』のキャメDとデミ・ムーアだってレズなんだ

なるほど・・・そうですよね。
だとすると、『羊たちの沈黙』のスコット・グレンとアンソニー・ホプキンスもそうなんでしょうか?
『セブン』のブラピとモーガン・フリーマンも、
『許されざる者』のクリント・イーストウッドとモーガン・フリーマンも(おお三度目)。
『ミリオンダラー・ベイビー』のクリント・イーストウッドとモーガン・フリーマンも(おお四度目)
というようなマクラを延々と話をしているうちにあっという間に1時間が終わり、宗教倫理学会は怒号と混乱のうちに終わったのでした(というのは嘘です。そのあとちゃんと『冬ソナ』のレヴィナス的分析もしました)。
講演後、はるばる浜松から来てくれたスーさんと、もっと遠い沼津から来てくれたコヤタさん、そのおともだちの(わりと近場の六甲道から来た)タダさんの「先生トリオ」、それに京都の本屋のえくぼがキュートなスナモトさんと「魔性の女」フジモトさん(彼女はどこにでもビジネス関係の知り合いがいて、さくさくと名刺交換をしている)と豆腐屋でゆばと田楽をアテにビールを飲み、燗酒を酌み交わす。
昼酒がまわっていい気分。
明日はいよいよ下川正謡会本番である。
はやく帰って着物の手入れをしなくちゃ。

投稿者 uchida : 2006年03月04日 20:22

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コメント

内田先生 始めまして

最初のコメントでこんなことを書くのは野暮かなとは思うのですが...
町山さんのブログからの引用をされておられますが、この引用文はリンク先の動画を見ないことには、あまり面白みのないものでしかないとおもうのですが。
町山さんも自身のブログでそのことに触れられておられますし。

投稿者 stock&flow [TypeKey Profile Page] : 2006年03月05日 03:40

はじめまして内田先生。私は先生の「寝ながら学べる構造主義」を読んで以来、すっかり先生の著書に魅了されている一読者です。

まだ内田先生の講演には行ったことがないのですが、今回、当初の演題になっていた「センチネル・境界を守る者」ものというテーマ。

これには興味をそそられます。
以前に先生が、「おとぼけ映画」で、「コンスタンティン」を語る際に、村上春樹の「アフターダーク」を引用されたと記憶しています。
そしてそのときに「センチネル」という言葉が出ていたので、その関連性から勝手に『きっと更に深い領域までこれらの作品に言及されるのでは』と、勝手に期待してしまいました。

う~ん。今回は楽屋で天啓があったのは、私にとっては残念ですが、また機会がありましたら「センチネル」の話を聞かせてください。

投稿者 [TypeKey Profile Page] : 2006年03月06日 16:14

暇潰しに参加していた創作系ミュージカル。時々の気分に任せ、ジプシーのように歌ったり、踊ったり。「結末なんて分からない。愉しけりゃいいんじゃない」。
けれども、高次元の自分は知っていた。神話の舞台に辿り着くことを。事実は小説よりも奇なり。
助走をして、新転地へ。
主役は勿論、小さな魂たち。演出は、瓜二つの他者に(お任せいたします^^)。

投稿者 一会 [TypeKey Profile Page] : 2006年03月07日 19:47

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