9月29日
台風が接近してきて、じゃんじゃん雨が降っている。
三宅先生の治療を受けにゆく。
昨日一日机にむかって身じろぎもしないで仕事をしていたので、身体が歪みきっている。とくに頸椎のつまりがひどいらしい(これは目の疲れ)。
くいくいとほぐしてもらう。治療が終わったときには視界が急に明るくなっていた。
おみやげに池上先生ご出演の三軸ビデオをもらう。
最近、東京でも「三軸修正法」を名乗る診療所がだんだんふえてきたらしい。
池上先生の講習を一二度受けたくらいで、池上先生が名前も知らない人がそういう名乗りをすると、あれこれややこしい問題が起きそうだと三宅先生が暗い顔をしている。
困ったものである。
だからといって「三軸修正協会」みたいな法人をつくって承認のパスを出すようなことになると、膨大な事務量になるし権益も発生する。
そうなると治療と関係ないビジネスマンがつられて入り込んできて事務局長とか理事長とかにおさまり、協会を私物化、派閥抗争、訴訟合戦、ついに池上先生「私は三軸協会とは何の関係もありません」と怒りの声明…というような不安な未来が透けて見える。
どうしたもんでしょうね、と三宅先生がいうので、とにかく法人化はよしたほうがいいですよ、ということを申し上げる。
会社を大きくして収益を上げて社員をふやして自社ビルを建ててIPO…というふうに考えていたのはバブル期までの「好天型」経営モデルである。
横町の天ぷらやとか下丸子の鉄工所くらいの「おじさんひとり」の自営業がこれからいちばん先端的な経営スタイルなのである(ほんとかね)。
とりあえず、速効的な解決法を思いついたので、首をぐりぐりしてもらいながら三宅先生にお伝えする。
「池上先生の方が、名前替えちゃえばいいんですよ。三軸プラス時間軸で、四軸修正法」
だめかしら。
すこし回復したので、「よっしゃあ」と気合いを入れて大学へ。
理事会と教授会有志との懇談会。
私が着任してから14年のあいだで、教授会メンバーと理事会メンバーがさしで話し合いの場をもつのは、これがはじめてのことである。
おそらくそれ以前にもあまりなかったことだろうから、これはある意味では画期的な「情報開示」機会である。その点については話し合いの場をもちたいという教授会の意向を、そのまま受け容れてくださった松澤理事長に深く感謝をしたい。
しかし、「話し合いの場をもちたい」という要望があがったのは、「どうも、理事会との意思疎通がうまくいっていないのではないか」という懸念がこの数年教授会メンバーのあいだにつよく根を張ってきたからである。
そう懸念するにはそれなりの原因があるのだが、それについてはかかる場で詳述するわけにはまいらない。
ともあれ、大学教職員の多くは「どうも理事会は教育研究の現場でいま何が起きているのか、あまりご存じないらしい」という印象を抱くにいたった。
私は「聖域なき自己点検」を職務とする自己評価委員長という役職上、この問題をいろいろと検討し、関係各方面への聴き取りなども行った上で、「この意思疎通の障害は学内理事数を増員すれば解消されるであろう」という結論を得た。
それを理事長に「委員長私案」として具申したのが春先のことである。
本学の理事数は15名。うち学内理事は3名(院長、学長、中高部長)。つまり、大学代表者は15分の1にすぎない。
学内理事の比率がそもそも他大学に比して例外的に低い上に、大学代表が1というのは、やや不均衡のそしりをまぬかれないであろう。
本学は収入の80%を学生納付金に依存している。
つまり大学は本学の「税収」の80%を負担しているにもかかわらず、その「税収」の使途を決定する「国会」には定員の7%の議員しか送ることができないのである。
これはあまり民主的な比率とは言えぬであろう。
「代表なければ課税なし」というのは、アメリカ合衆国の独立戦争のスローガンであり、アメリカの大学を出られた方の多い理事会メンバーはみなさま熟知されているところであるが、残念ながらこの原則を本学に適用することは自制されたようである。
これまでそのような非対称があまり問題にならなかったのは、現場からの要望がほぼそのまま理事会に受け容れられてきたからである。
しかし、ここ数年、理事会と大学教授会のあいだではひとつの深刻な状況理解の齟齬が生じ来た。
それは「少子化にどう対応するか」という問題をめぐる意見対立である。
この日記でも繰り返し書いているとおり、大学マーケットであるところの18歳人口は1992年の205万人をピークにして、2020年には112万人にまで42%の減となる。
マーケットが6割にシュリンクしつつあり、かつ日本の青少年の学力が先進国間の国際比較でほぼ最低レベルにまで低下しているときに、高等教育の質を維持向上させるためには、「マーケットと一緒に大学もシュリンクしてゆき、その中でゆきとどいた少人数教育を行う」というのが不可避の選択であると私は考えている。
私が考えているだけではなく、これは教授会が教員削減を機関決定したときの前提であった。
ところが、理事会はこれに同意してくれない。むしろ、できることなら今以上に学生数を多く採っていただきたいという。
なぜなら、学生数が減ると収入が減るからである。
それくらいのことは私にもわかる。
しかし、誰でもわかることだが、志願者が減る中で、入学者数を増やすということは、これまでなら本学に合格しなかった学力レベルの学生を受け容れるということである。
それがどのような結果をもたらすかは誰にでも想像できる。
「神戸女学院?ああ、誰でも入れる学校ね」
ということになる。
そのような世間の風評などは収入確保というリアルな要請の前には問題ではないというのなら、しかたがない。
しかし、「誰でも入れる学校」に来たがる受験生はあまり多くない。
おそらくそのような風評が定着した段階で、本学受験者はネガティヴ・フィードバック的に激減するであろう。
定員割れをして閑散としたキャンパスに、「あまり来たくなかったけれど、ここしか受からなかったから」という学生たちが暗い顔をして歩いている…というのはあまり心楽しい風景ではない。
本学で学ぶ動機づけのない学生を教える現場の労力と心痛は、そうでない場合とは比較にならない。へとへとになった教員たちはもっとモチベーションのある学生たちのいる他大学に、チャンスがあれば移りたいと思うだろう。
学生も教員も「そして、みんないなくなった」というしかたで大学はその天寿を全うするのであろうが、私はできることなら、そのような日が到来することを一日でも先送りしたいと願っている。
ダウンサイジングを選択しない場合にも本学がこの熾烈な大学淘汰の時代を生き延びられると、どうして理事会のみなさんが信じていられるのか、私にはうまく理解できない。
残念ながら、話し合いの後でも私はうまく理解できないままである。
ビジネスマインデッドな理事のみなさんはどうやらこの期に及んで「攻めの経営展開」というものを構想されているようであった。
優秀な学生がどんどん集まってくるような「新機軸」をどうして大学教授会は提言してこないのか、とかなり不機嫌な声を私は聞いた。
悪いけど、それは「ビジネスマンの発想」である。
たしかにビジネスにおいてマーケットは原理的には「無限」である。
一年前に買ったパソコンをゴミ箱に棄てて、新機種に乗り換えるというような嗜癖的な消費行動を前提にして日本の資本主義はまわっている。
消費者の欲望に点火しさえすれば、モノはいくらでも売れる。
「新機軸で一発起死回生」というのはビジネスの世界では「常識」である。
しかし、それは大学では常識ではない。
大学のマーケットは有限だからだ。
大学を毎年「買い換える」人はいないし、生涯に何度も大学に「出入り」するひともいない。同年齢集団の約半数が生涯に一度だけ入る、というのが大学マーケットのサイズである。
それが急減している。2020年までの数値を挙げたが、その先の減少傾向にも歯止めはかからないだろう。
その趨勢の中で教授会が考えた「新機軸」は、戦後60年間続いた「右肩上がり」幻想に別れを告げ、「本学建学の原点に立ち戻り、ほっこりとして知的なカレッジライフを提供する」というダウンサイジングの選択であった。
私たちは数年にわたってこのプログラムを検討し、本学のもてるソフトハード両方のリソースを最大に効果的に用いるのは、これしかないだろうという結論を得た。
残念ながら、理事会はこの「新機軸」を検討に値しないものと退けた。
「会社のダウンサイジング」というのは、ビジネス的には「敗北宣言」に等しいから、ビジネスマンご出身の理事のみなさんが「もってのほか」という拒否反応を示すことは私にはよく理解できる。
しかし、大学はそういう種類の「ビジネス」ではないということは繰り返し申し上げねばならない。
理事のみなさんはしばしばアメリカの私学の経営モデルを参照されるが、そのときに重要なファクターをひとつ勘定に入れ忘れてはいないだろうか?
それは、アメリカは欧米ではまことに例外的な「人口増加国」だということである。
私たちが教学の現場で問題にしているのは、まずはマーケットのサイズの絶対的減少という与件である。
すべてはこの与件から出発している。
そして、この問題について「正解」を処方した大学は歴史上まだ存在しないのである。
その他、理事会について申し上げたいことは多々あるけれども、それは大学教育一般にかかわる議論の水準にはないことなのでここには書かない。
がっくりと疲れて台風の予兆の強風の中を家路につく。
投稿者 uchida : 2004年09月30日 09:33
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内田先生のサイトを見ていたら、日本の少子化と大学の将来についての話が出てきました。教育の質を保つために少子化に合わせ定員も減らすべきだという教授会側に対し、理事会側は、定員を増やし、さらに規模を大きくするという方策を主張したため、同意は得られないまま物... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2004年10月02日 10:35
» family sex from family sex
family sex [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年10月30日 05:55
お誕生日おめでとうございます。
がっくり疲れたご様子、お察し申し上げます。
でも大丈夫ですよ。一線でご活躍されている社会人の方がつぎつぎと聴講にいらしてるし。(しかも男女を問わず!)こんなことはわたしが在籍していたころには考えられなかったですよ。凄いことだと思います。マーケットは縮小しているというよりは、成熟してきているのかもしれません。なんて無責任ですね。元気だしてくださいね。
しあわせになるかならないかはわかりませんが、私が知る限りの業界の「ここだけの話」メールにてご送付いたします。では!
投稿者 田口亮子 : 2004年09月30日 11:19
「大学マーケットが小さくなっている」というのは、意見ではなく現状でありまして、非常によくわかる話であります。
理事会の皆様方におかれましては、その現実をよそに空しい高度成長バンザイ的な感覚に浸り、おまけに腹のどこかで「ま、自分の退職金まで出れば後はどうとでもなれば良いんだけどね」的な言葉にならぬ官僚的感覚がどっしり座っている、えぇと、はずもないでしょう。きっと何かビジネスセンスにあふれた名案にあふれておられるのに違いありません。
「小さくなったパイを奪い合う」のは、よくある悲しきビジネス図です。大学の場合、一部を除いて「ブランド力」で勝負しない(できない)方向に向かっています。その上、編入学なんかが静かな底力を持って広がっています。したがって、いったん入学してくれた人も「税収入」としてあてにできなくなりつつあります。「優秀な学生が入ってくるような新機軸」を作っても、「臨時のバイト収入」どまりに…。
また、社会人を対象にした講座も、構造としては「行きずりの買い物客」相手の商売になるので、やはり臨時収入・雑所得の類でしょうか。
それでも「パイを大きくすれば良い」という発想は可能かもしれません。すなわち、大学に行かないもう半分の18歳人口を開拓しはじめる。こうなると(仮に「大学」と看板を出していても)大学でない商売に鞍替えすることになります。「大学に行かない人」が行くのは、当然ながら、大学ではないのですから。慣れない商売に手を出すには、それなりに準備が要ります。
どういう方向に行くのかはさておき、大学というのは、やはりビジネスとして異質です。良くも悪くも、日本では、「大学」という漠然とした目的感覚が小学校〜高等学校を引っ張ってきたという特徴があります。親亀こけたら必ず皆こけるのかどうかわかりませんが、やはり、どっかで、学問する姿勢なるものを(ずっこけながらもためらいながらも)体現し続けるビジネスでないと成立しないんじゃないかと思います。
そうでなきゃ、みんな専門技能を生かして明るく商売。栄養学の専門家が新種のアイスクリーム売ったり、芸大の教授が究極の実験映画作ったり、文学部の教授が極上娯楽小説書いたり…。で、これを面白がる人々が集まってくると。考えてみれば、これが本来の姿なのかもしれませんなぁ。雑言失礼しました。
投稿者 ヒグチです : 2004年10月01日 13:52
NIKKEI NET
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1G2904Q%2030092004&g=
MH&d=20040930
によると、外国に本部を置く大学の日本分校の在学生が日本の大学や短大に
転学・編入学できたり、卒業生が日本の大学院に入学できたりするようにな
るそうです。
大学マーケットを巡る競争はますます激しいものになりそうですね。
投稿者 オカダ : 2004年10月01日 18:13
今回三軸自在の会を三宅先生と一緒に企画している花谷です。四軸は難しいにしても内田先生のような方が三軸のことや池上先生のことを思ってくれているのは弟子としてもとても嬉しい限りです。今度11月末に信州で池上先生とお会いするとの事、花ちゃんも「来なさい」と命令が下されています。是非そのときはよろしくお願いいたします。花谷
投稿者 花谷博幸 : 2004年10月02日 21:12
サイン・インを確認しました、 さん。コメントしてください。 (サイン・アウト)
(いままで、ここでコメントしたとがないときは、コメントを表示する前にこのウェブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)