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2005年10月19日

会議飯とロハス

学務連絡会があるのを忘れていたので、ばたばたと大学へ行く。
昨夜遅くにも同じようなメンバーで「会議飯」を食べたようなつよい既視感がある。
私は会議が必要であることは認めるし、会議が時分時にさしかかるのであれば食事の手配をすることが作法にかなったことであることも喜んで認めよう。
けれども、同一の「会議飯」を食べ続けることに深い徒労感を感じるのは私ひとりではあるまい。
本学ではだいたい4種類のオプションの弁当がローテーションで支給される。
「葡萄屋の弁当」、「入試弁当」、「ちらし寿司」、「文学研究科弁当」である(呼称にカテゴリー・ミステイクがあることをあらかじめお許し願いたい)。
それから年に二度ほど「ビゴのサンドイッチ」がある。
昨夜のように、風邪気味で微熱があって寒気がしているときに「ちらし寿司」というのはあまり食欲をそそる献立とは言い難い。
だが、こういう会議の席で、開会の祈祷ののちに「カレー南蛮そば餅入り」とか「みそラーメンコーン大盛り」というようなものを学長の前で「ずずず」と啜り上げるという情景は想像することが困難なのである。
幸い、本日の会議は「会議飯」抜きのただの会議であった。
副専攻会議の後、クリエイティヴ・ライティングの会議。
「だからですね、これからはキャリア・デザインにきっぱりオリエンテッドした、学生諸君をエンパワーメントに向けてぐいぐいとエンカレッジするようなプログラムの策定が急務なわけですよ」
というようなことを力説する。
先週と言うことがずいぶん違うじゃないか・・・
ま、硬いことは言わずに。
クリエイティヴ・ライティングは私と難波江さんの宿願のプログラムで、私たちのような劫を経たおじさんたちが読んでもなおリーダブルであるようなテクストの「書き手」を養成し、できることなら芥川賞でも直木賞でも三島賞でも泉鏡花賞でもSF大賞でも乱歩賞でも取ってもらおうじゃないのという大胆不敵な企画なのである。
私たちはこと文学作品については半世紀にわたり賢愚玉石取り混ぜて腐るほど本を読んできたので「なんでも鑑定眼」だけは備わっているのである。
研究所に寄って『街場のアメリカ論』を「業績配布」のフォーマットと共に差し出す。
研究所の職員さんは無言で受け取る。
先月配布が3冊。
今月が1冊。
来月が1冊。
「ウチダって、毎月本出してるね」
「ぜったい変だよ。そんな書けるわけないもん。ゴーストライターとかに丸投げしてんじゃないの」
「ほんとだ、内容おんなじだもんね」
というような会話が同僚諸氏のあいだで囁かれている可能性がある。
同僚たちの疑念もまことにもっともである。
これは「ウチダはウチダのゴーストライターをしている」というふうに解釈されるのがよろしいかと思う。
私自身そういう気になるときがあるくらいである。
帰り際に『コナン・ドイルの心霊学』と『霊術家の饗宴』を研究室から取りだす。
これは霊学研究についてのコメントのためのネタ本である。
ああ、本が読みたい。
本を書くばかりで、さっぱり読む暇がない。
柴田元幸先生からも月刊ペースで訳書が送られてくるのであるが、とてもじゃないけど読むのが追いつかない。
私が読む速度よりはやく訳しているんだ、柴田先生は。
大学にゆきがけにジュンク堂で『下流生活』という新書をタイトルに引かれて買う(私のマンションは階下にCOOPとセイデンとジュンク堂がある)。
それを信号待ちの車の中で読む(けらけら笑っているうちに、大学の行き帰りの信号待ちだけで半分読んでしまった)。
愉快な人物類型を行っている。
「ヤングエグゼクティヴ系」というのはこんなふうに描写されている。
「一流企業志向、商社、金融、IT系に多い。(・・・)消費面では、住宅、インテリア、財テク、旅行志向が強く、外車好きである。もちろんネットトレードはしている。しかし、自分自身の独自な個性的な価値観はなく、あくまで、人がよいと思い、欲しいと思うものをいちはやく手に入れることに喜びを感じるタイプである。よって、六本木ヒルズ、港区の三井不動産のマンション、BMW,ロレックス、タグ・ホイヤーなど、わかりやすいステイタスが好き。ビジネス用のバッグはお約束でTUMIかゼロハリバートン。」(74頁)
TUMIかゼロハリバートンのビジネスバックを買おうと思っていたので、どきんとする。
車がベーエム、住んでるところが芦屋というあたりは「ヤンエグ」(もう「ヤン」じゃないけど)系だが、鞄の趣味とそれ以外は一致点がない。
もうひとつ「ロハス」系というものも紹介されている。
「『ロハス』って何?」
と私も先日「ロハスのためのマガジン」であるところの『ソトコト』から取材に来たライターさんに訊いてしまったのだが、ロハスというのは、そのラテン的な音感とはまったく違って、
Lifestyle of Health and Sustainability
「健康で持続可能なライフスタイル」の略語である。
「サステイナビリティ」持続可能性ということばは最近ときどき見かけるけれど、要するに「環境にやさしい」ということである。
環境が再生産可能な低強度で開発される限度内の生活にとどまろうという心がけである。
一昔前の「エコ」系のことである。
ロハス系は「比較的高学歴高所得」であるが、出世志向は弱い。
「自分の趣味の時間を増やしたいと考えているが、とはいえ忙しいので、それほど趣味の時間が多く取れるわけではない。よって、雑誌、本などを見て代償する日々が続く。雑誌でいえば『ソトコト』『サライ』を愛読するタイプ。会社の仕事だけでなく、社会活動、NPOなどにも関心があり、環境問題についてのセミナーなどにも個人的に参加するようにしている。」(78頁)
なるほど。
「消費面では、有名高級ブランドには関心が弱いが、ひとひねりしたそこそこのものを買うのが自分らしいかなと思っている。外車が好きだが、ベンツやBMWではなく、できればジャガーやプジョーがよいと思っている。」
わかるねえ。
「品質、製造方法、伝統、文化などについての蘊蓄があるものを好む。よって無印良品もやや好き。(・・・)古本、骨董、真空管アンプ、中古家具、古民芸など、やや古めかしいアナログ趣味の世界に浸るのも好き。」
書いている人(三浦展さん)は明らかに「誰か」身近な人をイメージして書いてるね、これは。
まだいろいろ続くようだけれど、笑い過ぎたので今日はここまで。
果たしてウチダを収納してくれるようなカテゴリーは存在するのであろうか?

投稿者 uchida : 2005年10月19日 19:13

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コメント

先生ご自身が'ウチダ'というカテゴリーを作ればいいと思います。
この世で何人ぐらいがカテゴライズされるのでしょうか・・・。
気になります。

投稿者 エセ紳士 [TypeKey Profile Page] : 2005年10月19日 20:46

先生、『下流生活』ではなくて『下流社会』三浦展ですよ。私は読みかけで棚上げして、街場・・・を先に読みました。

投稿者 漆黒 [TypeKey Profile Page] : 2005年10月19日 21:10

 「下流社会」読ました。日本が格差社会になりつつあるというのは目新しくはありません。ただ、それをマーケティング的に分析したこと。そして、光文社の編集者がタイトルをつけたのだと思いますが、「下流社会」と命名したことがこの本のポイントだと思います。「さおでけ屋はなぜ潰れないか?」もそうですが、光文社新書の編集者のネーミングセンスははたいしたものです。
 発売から数日で池袋のジュンク堂などでは品切れしていました。多くの人が下流社会という言葉にドキッとして、手に取ってしまったのでしょう。

投稿者 たけちゃん [TypeKey Profile Page] : 2005年10月20日 00:08

失礼しました。題名を間違えました。『下流生活』じゃなくて、『下流社会』だったんですね。
どうして間違えたんだろう。
この「読み違え」にはなんだかフロイト的作為を感じますね。
『下流社会』というと、なんとなく冷たい語感だけど、『下流生活』というと、『通販生活』とか『主婦と生活』とか、そういう「ほんわり」した手触りがあって、「下流生活も、けっこうなじむといいよね」「そうそう」というようなイマジナリーな対話が聞こえてきちゃったからでしょうか?

投稿者 uchida [TypeKey Profile Page] : 2005年10月20日 09:42

「下流社会」、読んでみたいです。この手の本は、(1)自分が気に入らない奴を一気にステレオタイプ化して、影で人格を無視する術を与えてくれるのと、(2)何でもかんでも体系化して理解する癖がある人の気持ちをすっきりさせてくれる効能が有難いですね。でも、「…ベンツやBMWではなく、できればジャガーやプジョーがよいと思っている」って全然ひねってないです。ドイツ車じゃなくて英国車かラテン車ってのを言いたいのなら「アストンマーチンやランチャがよいと思っていいる」くらいにして欲しかったです。

投稿者 magnon [TypeKey Profile Page] : 2005年10月20日 21:55

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