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2005年10月05日

唐茄子屋メディア論

母からファックスが届いた。
数日前私がこのブログに書いたことへの感想のおことばである(79歳になる母はもちろんパソコンなどには触らない。私のブログ日記を兄ちゃんがプリントアウトして毎週母のもとに郵送しているのである)。
おどろいたことに、私と同時期に母も朝日新聞の購読を止めたのだそうである。
私はうまれてからずっと朝日新聞というヘビー・リーダーであることは先般記したとおりである。
ということは母もそれ以上に長期にわたる忠実なる朝日読者だということである。
その母が次のように書いてきた。
「結婚して以来六十年近く、新聞は朝日しか読んだことがありませんでした。朝起きて、顔を洗って、何よりも一番に新聞を隅から隅まで広告まで目を通すのが日課ですが、この頃、何か朝日を読んでいると気分がよくなかったのです。むつかしい意味はわかりませんが、何か腹が立って来るのです。」
そして、母は私とほとんど同じ日に「やめよう」と決断し、毎日新聞に換えることにしたのである。
私のブログを読んだ後ではなく、ほぼ同時に母も数十年にわたる購読を停止したのである。
「余りに面白い一致だったので一応ご報告します」
と母のファックスは結んであったが、これはかなり重要な徴候ではないかと私は思う。
先週、NHKから電話取材のオッファーがあったときに記者のS田くんと1時間くらい話し込んでしまったが、そのときに「メディアに対する不信」をメディア自身が払拭する努力を怠っているのではないか、ということを申し上げた。
朝日新聞は今回のNHK放送事件、捏造記事事件などでメディアへの信頼性を深く損なったけれど、それ以上に自己正当化の言を口走って「自己批判・自己点検」する能力のなさを露呈したことが致命的であったと思う。
おそらく朝日は現有の800万読者のうち200万くらいをこの2,3年のあいだで失うのではないか、という予測を話した。
もちろん当のNHKの受信料もがた減りしていて、信頼回復の見込みもない。
「朝日・岩波・NHK」は戦後日本の「良識」のセンターラインを形成してきたはずのメディアであるが、それらがいずれも機能不全に陥ってる。
岩波は別に不祥事を起こしたわけではないが、『世界』の発行部数は悲惨な数字となっている。
60年代には『世界』と『朝日ジャーナル』は「ちょっと知的な高校生」の必須アイテムであった。
私は過去十年間『世界』を読んでいる高校生に会ったことがない。
以前、高橋源一郎さんが岩波の編集者に「『世界』がぜんぜん売れないんですけど、何かいい企画はないですか?」と尋ねられたことがあるそうである。
高橋さんはしばらく考えてから、こう答えた。
「『世界の罪』というのはどう?戦後論壇で『世界』が世論をミスリードした事例すべてについて、詳細な自己点検と自己批判をして『申し訳ないことをしました』って謝罪するの。これなら毎月20万部は売れるんじゃない?」
もちろん編集者は取り合わなかった。
だが、さすがタカハシさん、これはばらしい企画である。
人間知性の信頼性は「おのれの誤りを他人に指摘されるより前に発見すること」に優先的にリソースを注ぐということ、ただそれだけによって担保されている。
兄ちゃんによれば、ビジネスの場合もそうだ。
すぐれた経営者は、自分が開発したビジネスモデルの限界を、誰よりも先に発見する。
みんながまだまだ「これでいける」と言っているときに、「いや、これはもういずれ使えなくなる」と見て、大胆に「撤収」を宣言できる経営者だけが生き延びることができる。
逆に、まわりが「社長、もうこれはいけません」と諫言しても、自分がつくりだしたビジネスモデルに固執する経営者は遠からず自滅する(最近も印象的な事例があったことはご案内のとおり)。
『世界』が『世界の罪』を真摯に自己剔抉する勇気と知性を示せば、ブランドの信頼性は一気に回復するだろう(私だって定期購読する)。
母が書いた「何か腹が立ってくる」という感覚は、コンテンツにかかわる苛立ちではないと思う。
そうではなくて、「メディアがこんな状態で、ほんとうにいいんだろうか?読者視聴者にいずれ見捨てられるんじゃないだろうか・・・」というまっとなジャーナリストなら当然抱いてよいはずの不安が、いまのメディアからは感じられないからである。
親からは勘当され、友人知人も離れだしているときに、左団扇で、「なあに、なんてこたあねえよ」と冷や酒くらって、「どうでえ、みんなでこれからナカへでも繰り出そうじゃねえか。なあに勘定なら心配いらねえよ」と大見得を切っているお気楽若旦那を見ていると「むかっ腹が立ってくる」というような種類の腹立ちを母は感じたのではないだろうか。
私はメディアの復活に対しては、基本的には楽観的である。
『唐茄子屋政談』の若旦那がわずか一日の「唐茄子売り」経験で真人間に戻ったように、「まっとうな商売を一からやり直そう」と決断しさえすれば、朝日だってNHKだって岩波だって、また「メディアの王道」を粛々と歩み始めることができる。
私はそう信じている。
だから私は、当今はやりの「メディア叩き」には加担する気がない。
一度腐りかけたシステムを「まっとう」な道に戻すことの方が、すべてを壊して新しいものを作るよりずっと困難な仕事であり、ずっと人間的な仕事だと私には思われるからである。
でも、そのためにはみなさんには「唐茄子売り」をやって頂かないとダメなんだけれど、果たしてメディアの方々にはそれがどういう「ふるまい」を意味するのかがわかるだろうか?

投稿者 uchida : 2005年10月05日 10:08

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コメント

MMNさん私のコメントが過度にだらだら長いし、訂正で数が増えたり、うんざりするということにはまったく同感です。私自身うんざりです。それでもやめられないのが「わたしの病像」で、このブログへのコメントしたいという誘惑に勝てない。試験勉強しているとやたら文章が書きたくなったり、関係ない本が読みたくなったりしますね。あれみたいなんです。でも、もうすぐ直ります。
アンダーラインを引いてみる:
内田 大学の先生もそうなんですが,医師も,「自分は正しい答えを知っている」という信憑が基本的にあるし,それがないとやっていけない職業です。だから,中腰で我慢するというあり方は難しいのかもしれない。
そしてマスコミも…
***
春日 統合失調症の方で「これが宇宙の法則なんです!」って言いたがる人がけっこういるんですけど,それと一緒ですね(笑)。とにかく,コンパクトな中に真実を入れたがる。本1冊とか,箱の中に世界のすべてが入ってるとか,そういうのにグッとくるらしいです。
(以上春日先生と内田先生の対話から)
「アサヒ・NHK・岩波」の病像はこれかな(少なくとも何かの精神疾患だな)?などと思ってみる。母上もアサヒを隅から隅まで読む方だった。たぶん、私がまだ耐えられているのは、事実をピックアップする以外の目的では読まないといういい加減さのおかげかな?うつらないように気をつけてはいるのです。
***

(1)自分が何を言いたいのか把握していないうちに話しを始める。
(2) 自分が理解していない単語を使いたがる。
(3)相手が乗ってこないといきなり話題を変える。早口でしゃべる。わけのわからない比喩を使う。

日本語の場合これで済んでいるのは、「話しているうちに、自分が何を話したいのかだんだん分かってくる」ということがあるからである。(「舌」が「頭」に先行するわけですね。)
12 Sept.2001
まったく俺と同じなんだよ。違うのはどこかほかの点だな。メディア(舌)が
メッセージコンテンツ(頭)に先行するなんぞは、とんとマクルーハンでげすなぁ。
***
ami

Senate Agriculture Chairman Urges Bush to Make Resumption of Japanese Beef Trade a Top Priority
October 3, 2005 -- Senate Agriculture, Nutrition and Forestry Committee Chairman Saxby Chambliss (R-GA) recently wrote a letter to President Bush urging him to address the re-opening of the Japanese...
んでもって、今週の「週刊朝日」に、アンクルサムの帽子とアメリカンビーフについての知識チェックのチャート見たいのが載っていて、やってみたら60%アメリカンビーフのフリークだと判定された。AMIをおちょくったオモロイ企画だなと思ったら驚くなかれこれがマジ(!)americanmeat.jpの広告だったんですよ。いわずと知れたライフル協会とならんで共和党の基盤である食肉協会が大々的に登場。
もしこの広告がポジティブに効いたとしたら、「日本人は変わった」ということだろう。911以来の難題が少しOS再編に向かうかも、

投稿者 つっかん [TypeKey Profile Page] : 2005年10月05日 12:15

現代霊性論、面白そうですね。
こっそり聴講したいと思ってるのですが、何時からの講義でしょうか?
教えていただければ幸いです。

投稿者 たけぞう [TypeKey Profile Page] : 2005年10月17日 12:33

たけぞうさま:
コメント見るのが2週間も遅れてしまって、お問い合わせに気づきませんでした。
ごめんなさい。
現代霊性論は月曜日の4限(14時55分から16時25分まで)です。
聴講生・盗聴性は原則として受け容れるというのが私のひそかな方針であります(教務部長しては公言することができませぬが)。
聴講したいという方は私か釈先生にメールを下さい。

投稿者 uchida [TypeKey Profile Page] : 2005年10月28日 20:15

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