トランプ政権が「国家安全保障戦略」を公表した。「パクス・アメリカーナ」の政策的基盤であった国際協調主義を捨て、「米国第一」の孤立主義への回帰がこれで決定的になった。「西半球」を自国の勢力圏とみなして排他的に利益を追求する一方、中国とロシアには干渉しない。そして、これまでの同盟国とは距離を置く。「巨神アトラスのように米国が世界秩序を支える時代は終わった」とトランプは宣言した。
米国は建国以来、国際協調主義と孤立主義という相反する外交戦略の間を揺れ動いてきた。孤立主義は第五代大統領ジェームズ・モンローが1823年に教書のかたちで公表した外交戦略である。米国はヨーロッパ諸国の紛争に干渉しない。その代わりに、ヨーロッパ諸国は南北アメリカ大陸に干渉してはならない。
第一次世界大戦への参戦を渋ったのも、ウィルソン大統領が提唱した国際連盟に参加しなかったのも、第二次世界大戦参戦前に、保守派から左派リベラルまで含んだ「米国第一委員会」が広範な支持を集めたのも、どれもモンロー主義の表れである。だから、トランプの「米国第一主義」と孤立主義への回帰も米国民にとっては「いつか見た風景」の何度目かの再演に他ならない。
国際協調から降りたアメリカは今「G2」体制をめざしている。二大国が勢力圏の分割で手打ちをするというアイディアはトランプの創見ではない。1494年にスペインとポルトガルはトルデシリャス条約によって「世界二分割」を決めた。コロンブスによる「新大陸」発見後、この宏大な「無主地」の先占を争う時に、妥協案として西アフリカセネガル沖の子午線に沿った線の東側の新領土がポルトガルに、西側がスペインに属することを定めたのである。
おそらくトランプの脳内にあったのは、グアム=テニアンの線で米中が世界を東西に二分割する「21世紀のトルデシリャス条約」のようなものなのだろう。「世界秩序」を支える気はないが、「西半球」の利権は確保したい。そう考えると、グリーンランドやパナマ運河を領有しようとしたり、ベネズエラの油田を「アメリカのもの」だと言い張るトランプの妄想的な世界戦略の意味がわかる。
おそらく次の訪中の機会に、習近平との間で「ベネズエラを米国が獲るのを見過ごしてくれるなら、中国が台湾を獲っても文句を言わない」という「ディール」を試みるつもりでいるのだと思う。ベネズエラの石油埋蔵量は世界最大である。ここを属国化すれば、米国はもう中東には用がなくなる。ホルムズ海峡からのオイルロードの守備も不要になる。東アジアの同盟国に対して「オレらはハワイまで退くから、あとはお前たちで何とかしろ」と言って西太平洋から立ち去るというシナリオはもはや空想的なものではない。
日米安保条約の廃棄を米国が通告してくる可能性について、私は以前は「ゼロではない」と書いていたが、今なら「低くはない」と書き換える。
「東アジアからの撤退」はおそらく韓国から始まる。在韓米軍司令官が持っている戦時作戦統制権が韓国軍に移管された時(つまり北と軍事衝突が起きた時に米軍が参戦しない口実ができた時)が「撤退」の始まりだと私は思っている。朝鮮半島から目が離せない。(中日新聞視座12月27日)
(2026-01-17 08:18)