人口減リスクにどう対処するか

2022-12-29 jeudi

 先日、韓国の釜山大学から「地方消滅危機時代の人文知の役割」という演題を頂いてオンライン講演をした。韓国も日本に続いて急激な人口減局面を迎えている。とりわけ地方の人口減が甚だしく、人口はソウルに一極集中している。「地方消滅危機」をどうしたらいいのか、そう訊かれても私に妙案があるわけではない。ただ、これは日本と韓国だけでなく、東アジア先進国共通の問題であるということをお話しした。
 韓国の合計特殊出生率は0.84。少子化日本でさえ1.34なのだから、その異常さは知れる。100年後の韓国の人口は中位推計で60%減。今5200万人の人口が2000万人に減る見通しである。
 しかし、先日お会いした韓国の外交官は「人口減について韓国社会で危機感は割と希薄だ」と教えてくれた。理由を訊いたら「『北』を当てにしているから」というお答えであった。
南北統一はいつになるか分からないが、経済交流はいずれ始まる。南は北に投資し、北は南にマンパワーを送り込む。北には2500万の「同胞」がいる。彼らを労働力として迎え入れ、市場として確保すれば、人口減の衝撃はずいぶん緩和できるはずである。なるほどそういう考え方もあるのか。
 同じく少子高齢化に直面している台湾はどうだろう。香港での民主派弾圧が始まった時、英国は香港市民に英国市民権を提供すると宣言した。そして、台湾も香港市民の受け入れの意思を表明した。ただし、移住を受け入れているのは、今のところは海外留学経験者や起業経験者などに限定されている。それでも、いざとなれば隣には750万人の「同胞」がいる。この辺の感覚は北の同胞を当てにしている韓国の場合と近いのかも知れない。
 中国は2027年から急激な人口減と高齢化を迎える。14億という厚みがあるからすぐにマンパワー不足や市場縮減のリスクはないだろうが、長期的には手当が必要だ。おそらく「一帯一路」関連国とアフリカ諸国を「当てにしている」と私は思う。
 アフリカはこれからも人口が増え続ける例外的な地域である。中国はだいぶ前からアフリカに大規模な投資を行い、政治的・経済的な勢力圏に組み入れている。すでに61の孔子学院を展開して、中国語・中国文化教育を行い、将来的に故国のエリートになるべき若者たちに潤沢な奨学金や留学制度を提供して、「親中派」ケルンの形成に熱心に取り組んでいる。いずれアフリカを中国企業の製造拠点かつ製品販路に育て上げることで中国は人口減に対処するつもりなのだろう。
 韓国は北を、台湾は香港を、中国はアフリカをそれぞれ人口の供給先として当てにしている。
 翻って日本はどうなのだろう。ベトナム、インドネシア、フィリピン、マレーシアなど人口が多く、年齢が若い国からの移民労働者を当てにしているのだろうけれども、果たして彼らは日本を選んでくれるだろうか。賃金水準ではいずれ中国韓国に抜かれるだろう。日本が移民を呼び込めるとしたら市民的自由を保障すること、人種も言語も宗教も異にする人たちと共生できる「歓待の文化」を持つことによってだけである。だが、今の日本社会はそれとはまったく逆の方向に向かっている。(2022年2月24日)