平田オリザさんからの台湾速報

2014-04-06 dimanche

佐藤学先生と入れ替わるように台湾の大学で集中講義をされた平田オリザさんから、台湾事情についてたいへん興味深いレポートが寄せられました。
ふうむ、そういうことなのか・・・

第一報(4月4日)

佐藤先生と入れ替わりで、四月一日から台湾に来ています。国立台北藝術大学で五日間の集中講義(ワークショップ)をしています。

立法院の占拠は、政府が強攻策をとるという噂もあれば、このまま持久戦に持ち込んで学生が疲れるのを待つのではないかという説もあります。今週は台湾の大学は、もともと休みなので(私は、その期間を利用して行う公開講座の講師として呼ばれたのですが)、大学が再開される来週からが山場かもしれません。

私がいまいるのは、芸術系の大学ですので、教授陣も全員が学生側を支持しています。今回は特に、「サービス貿易協定」で言論の自由を実質的に封殺される可能性の高い演劇、映画、出版界などからの支持が強いようです。
30日(日)のデモには50万人、全国では70万人以上の人々がデモに参加したといわれています。「台湾の人は普段は政治に無関心な人間が多いのに、これは異常な数字だ」と、私を招いてくれた教授も言っていました。馬英九の支持率は、実質は5%を切っているのではないかと噂されています。

今回の学生運動と、その支持が大きく広がったのは、運動の過程を通じて、中国資本の浸透が思っていた以上に進んでいたという事実が、はからずも露呈したということがあるようです。
たとえば、地方から運動に参加する学生たちがバスをチャーターしようとしたところ、多くのバス会社に中国資本が入っており、バスを貸さないという事態が起こった。あるいは、テレビは中国資本の影響(直接的な資本参加とCMのスポンサーとしての影響)が強いので、公平な報道をしていないといった事実。こういったことが重なって一般市民が危機感を強めたようです。
たまたま、先週は香港にいたのですが、香港でも、中国資本による柔らかい言論封殺への危機感が叫ばれていました。30日のデモでは、香港でも800人の市民が連帯を示すデモをしました。
私の中国の友人も、「いま中国は、共産党とグローバリズムの二つの抑圧を受けている」と言います。韓国などでは成立した「経済の繁栄が民主化を促す」というモデルが、完全に破綻した世界に、私たちは生きていると認識すべきなのかもしれません。

明日の夜には帰国なので、もう少し早くご報告出来れば良かったのですが、朝から夕方まで授業をしているので、ご連絡が遅くなりました。

第二報(4月5日)

いま、台北の松山空港です。すべての日程を終えて、搭乗を待っているところです。
やはり、今日、明日にも警官隊が突入するのではないかと噂になっています。昨日まで通常の装備だった警察隊が、昨夜から防弾チョッキなどを身につけているとも言われています。暴力行為が心配されます。大統領は週明けには立法院を正常化する方針のようです。

私は佐藤先生のように現場に行ったりしたわけではないので、あくまで側聞に過ぎませんが、大きな問題点をいくつか、まとめてみました。

1.台湾の産業の空洞化は、ある意味では日本以上に進んでいて、大企業の工場の中国移転はすでに完了している。問題は、その大企業が大陸で儲けた金が台湾に戻ってくるときに、現在は大きく課税されいるが、新しい協定ではこれがなくなる。要するに儲かるのは大企業に投資した資本家たちだけ。その投資家たちは、台湾で金を使うわけでもないし(国民党に献金はするだろうが)、納税するわけでもないし、国内に再投資をするわけでもない。一方、現在、九割以上と言われる台湾の中小企業は、中国資本の進出によって壊滅的な打撃を受ける。

2.国民党は台湾全土にネットワークを持っていて選挙に強い。そのため、国会議員の選挙では、民進党はなかなか勝てない。総統選挙で勝ったとしても少数与党になりがち。また、反国民党が党是のような野党体質の党なので、派閥が多く内紛も絶えない。といった背景から、もともとあんまり政治に関心のない台湾国民は、「やっぱり安心なのは国民党」という感じで巨大与党を選んだら、それが暴走し始めて現在に至っている。という、どこかの国の近い将来を予感させる状態になっている。

3.これほど広範囲な運動になったのは、前回報告したように、中国資本に対する漠然
とした不安が顕在化したことにある。誰も、台湾が中国に飲み込まれることを望んでい
ない。

中国嫌いの安倍政権にとっては、今回の反対運動はシンパシーを持つべきものだと思いますが、それは一方で、経済のグローバル化に反対するという自己矛盾を起こします。世界がバルカン化する状況の中で、反中国色を強めながら、いわゆる「中国化」していることに無自覚な安倍政権の外交政策が、よりいっそう迷走することも懸念されます。

最後に私の仕事について。今回のミッションは、五日間、毎日6時間ワークショップをするというものでした。今日は最後の成果発表の日で、28人が4チームに分かれて15分ほどの劇を作り上演しました。
ある班のストーリーは、以下のようなものでした。

・河口湖畔のホテル、富士山のいちばんよく見えるスイートルームが舞台。この部屋は子作りパワースポットしても有名。
・そこに中国人の夫婦が、子作りのためにやってくる。
・部屋でくつろごうとすると、バスルームから台湾人の女性が出てくる。どうもダブルブッキングしたらしい。
・いろいろもめるが、オーナーを呼んでくることになる。
・オーナーは、このホテルを最近買い取った中国人で、当然、中国人夫婦の味方をする。
・台湾人女性、怒って部屋の中で座り込みを決行(ここで観客から大拍手)
・台湾人女性のフィアンセのアメリカ人実業家が遅れてやってくる。
・アメリカ人実業家との提携話を進めるために、中国人オーナーは、突如、台湾人女性の味方をする。中国人夫婦激怒。
・オーナー権限で全員、退去させられて、台湾人女性とアメリカ人のフィアンセが残る。台湾人女性は、早く子作りをしようと迫る。しかし、アメリカ人は東洋かぶれで、「もう儲けるだけ儲けたから、全財産を寄付して、日本で出家する」と言って去って行く。
・ここで、掃除にやって来た日本人女性従業員と中国人オーナーの不倫がばれる。共働きの日本人従業員の夫が泣き出す。台湾人女性は、アメリカ人を追いかけて出て行く。
・みな、部屋に戻ってくる。日本人女性従業員が、オーナーの子供を身ごもっていることを告白。中国人夫婦が「どこで身ごもったの?」と聞くと、女性従業員から「下の部屋です」という答えが返ってきて、夫婦は急いで子作りのために下の部屋に移動。中国人オーナーは、「これでどうにかして」と札束を女性従業員に投げつけて逃げ去る。
・残った日本人夫婦が、窓の外を眺めながら、「やっぱり富士山いいよね」としんみり話していると、富士山が噴火し始める。

この劇を作った学生たちに聞くと、このホテルのスイートルーム自体が尖閣諸島のイメージなのだそうです。単純なネトウヨの人とか怒るんでしょうけど、でも、この芝居における台湾学生の国別好感度は、台湾-日本-アメリカ-中国なんですね。

楽しい五日間でした。