剣の理合について考える

2010-02-23 mardi

月曜火曜と杖道会の合宿。
合宿は白浜に続いて、二回目。
若さまが忍耐強くクラブ活動を支えて、後継者を育ててくれたので、今は2回生が6人もいる。
若さま、ありがとう。
今回は滝野の日光園という不思議な旅館に泊まる。
お部屋も広いし、お風呂も広いし、道場も広いし・・・全体に「広すぎ?」という点が、私たち都市住民の空間感覚とややずれがあったのかも知れないが、たいへんカンファタブルであった。
初日は13時から17時まで杖の稽古。
基本をやってから、着杖(つきづえ)から乱留(みだれどめ)まで。
二日目の今日は9時から13時まで。
基本をやってから乱合(らんあい)。それから居合。
このところ月曜と金曜に会議や取材や打ち合わせが集中して、二ヶ月ほどお稽古を見ていないのだが、みんな私の留守中もちゃんとお稽古をしていたらしく、ずいぶん上達しているので、うれしくなって、少しむずかしい術理をお教えすることにする。
杖には杖の、剣には剣の、先方の「ご事情」というものがある。
あちらのご事情をできる限り配慮せねばならない。
杖や剣は、初期条件が設定されれば、それ以外にないという唯一無二の最適動線を、最短速度でたどり、障害物に出会ったときに最大エネルギーを発揮する。
こちらの仕事は、先方の「お仕事」の邪魔をしないということに尽くされる。
うっかり、こちらの都合でコースを変えたり、止めたり、曲げたりすると、えらい目にあう。
打突斬撃の力というのは凄まじいもので、肘や肩や膝はすぐに壊れてしまう。
人間にできるのは「初期設定」と「強制終了」の二つだけである。
初期設定でなすべきことは、杖剣を「正しい位置」に置き、「正しい動線」に送り出すこと。
強制終了でなすべきことは、杖剣が急停止する際に、どうすれば当方の肘や肩や腰や膝にダメージを与えないで済むかを思量すること。
この二つである。
私が稽古していたとき、「どうすれば打突や斬撃が強くなるか」についてはさまざまなご指導をたまわったが、「どうすれば身体を壊さないように杖剣を止めるか」という技術的な問いはどうも組織的にニグレクトされていたように思う。
それは現に、多くの高段者が膝や肘を壊していたからである。
そのせいで、杖や居合の講習会場はつねに「エアーサロンパス」の刺激臭で充満していた。
先生方は誰も高齢の先輩がたを指して、「ああいうふうになってはいけないよ」とは言わなかった。
まあ、言いにくいですわな。
結果的に、若い人たちは次々と身体を壊していった。
私も膝を壊した。
外科的診断では「運動厳禁・正座厳禁・革靴厳禁」というところまで壊した。
三軸修正法の三宅安道先生のおかげで奇跡的に復活できたが、三宅先生に出会っていなければ、いまごろは杖にすがってよろよろと歩いていたはずである。
自分自身の失敗が骨身にしみているので、どうやれば打突斬撃の蔵する巨大なエネルギーを解放しつつ、そのダメージを「放電」するかという技術的問題をずっと考えてきた。
断片的にわかったことがいくつかある。
一つは「手の内」が大きく関係していること。
手の内の締めを変えることで、どうやら剣の斬撃のエネルギーは方向を変えるらしい。
剣の場合は「物打ち」という、切っ先から三寸ほど下のところが最大の力を発揮するポイントなのであるが、そこにエネルギーは集中している。
手の内を「斬り手」から「止め手」に変えると、このエネルギーの向きが変わる。
物打ちから刀身を下って、右掌から身体の内側に流れ込み、胴を貫いて、左足裏から地面に「放電」する(ような感じがする)。
よくわからないけど。
というわけで、このところ手の内のことをいろいろ工夫しているのである。
学生たちは非力な女性であるから、身体をうまく使う以外に剣の止めようがない。その点では、臂力にすぐれた男性よりもむしろ「術」を求める気持ちが強い。
あれこれと思いつくことを実験しているうちにあっというまに時間が経って、合宿が終わってしまった。
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