ドイツのつぎはフランスから

2010-02-18 jeudi

毎日入試関連の会議。昨日も会議が3つ。今日もこれから夕方まで会議が4つ。
どうしてこんなに会議が多いんだろ。
会議のあいまにあれこれと用事を言いつけられるが、一つの用事が終わらないうちに次の会議が始まり、それが終わった頃には次の用事が言いつけられ、しだいに「未済」の仕事がうずたかくデスクにたまってゆく。とほ。
出版社からは「もう春休みなんですから。はやくゲラ返してください」と次々と督促メールが来るが、春休みも毎日出勤してるんですってば。
デスクで仕事をしていると講演依頼、連載依頼、新規書き下ろし依頼などのメール、ファックス、電話が来る。

「たいへん申し訳ありませんが、2010年度は大学最後の年ですので、教育と学務に専念するため、学外でのお仕事は原則としてお断りしております。貴意に添えずにまことに申し訳ありませんが、微志ご諒察の上、ご海容ください。」
というストックフレーズを「クリシェ」にして、そのまま印字して返信している。

キーボードで「やだよ」と打つと、これがそのまま出てくる。
むろん、このような世間をなめた態度を貫徹していれば、いずれ天罰が当たり、暇になったときに「仕事ください」と泣訴しても、「ばかやろ。オレが頼んだとき、えらそうに『やだよ』なんて断ったくせに」と足蹴にされることは必定なのである。
それも人生。

Courrier International というフランスの雑誌から転載の依頼が来る。
『週刊朝日』にお正月に出た「日本はこれからどうなるのか」というインタビュー記事である。
もちろん、どうぞどうぞとお答えする。
こんなの。

目指すは「気分のよい老人国家」そして「後世への贈り物」を
2010年は、日本が国家としての「老境」に入る転機の年になると思います。
超少子化・超高齢化の趨勢はとどめがたい。それによって人口の流動性は低下し、消費活動は鈍化します。日本経済は未経験の領域に突入しますが、エコノミストも政治家も「元の状態」に戻そうと必死です。
しかし、もう「元に戻す」のは無理なんです。もう「右肩上がりの時代」は再現できない。そのことはみなわかっているはずです。今の日本は「老人国」になろうとしている。もう無理は効かない。限られた資源でやりくりして、その範囲内でどれくらい生活の質を高く保つか、それを考えるべきでしょう。
人口が減ったからといって、いきなり国家が崩壊するわけじゃない。少子化は「問題」じゃなくて、「解答」なんです。1億3千万人なんかどう考えてもこの国土には多すぎる。適正数への補正が少子化なんですから、あわてることはない。
これから日本が目指すべき目標は「質のよい後退戦」だと思います。年老いて、気力体力が失われてゆくことは個人にとっても別に不幸なことじゃない。それが自然の理なんですから。むしろ、これを奇貨として、人類史はじめての「たたずまいの端正な隠居国家」の実現を国家目標に掲げる方がいい。俗世の欲得でじたばたしている「若者」たちを暖かく見守りながら、大所高所から静かな口ぶりで味のあるアドバイスをする「隠居国家」こそ日本のあるべき未来像だと私は思います。
とはいえ、日々の糧は得なければなりません。製造業はもう老人国の分野ではありません。では何に特化するか。私のお勧めは「ホスピタリティ産業」です。幕末や明治初期に書かれた外国人による旅行記を読むと、接客の暖かさと質の高さにおいて、日本はきわだって高い評価を受けています。世界に冠たるホスピタリティのノウハウを日本人は国民文化として持っている。美しい里山、白砂青松、温泉、スキー場など、観光資源には事欠きません。それゆえ、これまで公共事業でさんざん破壊してきた自然をもう一度再生させることが救国のための第一の急務だろうと思います。
もう一つの答えは「帰農」です。若い人たちのイニシアティブで共同的に運営されるあたらしい農業のかたちが、いま同時多発的に各地で生まれています。農業共同体を基幹単位として共同体を再構築するという選択は経済合理性から導かれたものではなく、もっと原初的な人類史的直感が示すソリューションだと私は思います。
長く見捨てられていた林業にもいま若い人たちが集まってきています。100年後200年後の「後世への贈り物」のために働くという、日本人が失って久しい労働観が甦ってきたのだとしたら、これは言祝ぐべきことでしょう。

とまあ、お気楽な未来予測であるので、「ふざけたことを言うな」と激怒されるお役人やビジネスマンの方も多々おありになると思う。
すまない。
でも、フランス人がこれを読んで「へえ〜」と思ったのは、たぶん「うん、日本はそういうふうになったら、いいんじゃないかな。オレもそういう日本だったら、観光に行ってユーロを散財するにやぶさかではないけどね」というような気分がふと兆したからではないであろうか。
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