こ、声が

2009-08-21 vendredi

仮歯を修正して、下歯列の覆いを縮小する。
おお、しゃべれる。
(だいたい)私の声だ!
「た」と「す」の音がうまく出なくて、「ウチダです」と言おうと思うと、「うちられしゅ」になってしまったのであるが、「うちだでふゅ」くらいに戻した。
わが声にあまりに違和感があるので、アイデンティティを安定的に保つために「私は生まれてからずっとこういう声」と自己暗示にかけることにした(私はこういう環境順応能力がたいへん高いのである)。ところが夏休みのせいで、外に出て人と会うことがないので、自分の声に慣れる時間がない。
困ったものだと思っていたのだが、歯茎を覆うプラスチックの面積を少し狭くしただけで声がだいたいもとに戻った。
人間の身体というのはまことに精妙なつくりになっている。
日曜日には成瀬さんとの対談の仕事があり、この声で人前でしゃべるのは気が重いなと思っていたのである。
やれやれ。
インプラント技術は日進月歩で、歯槽骨の再生技術もずいぶん進んでいる。
先日読んだ新聞には、マウスの歯槽骨を再生したら、新しい歯が生えてきたという記事が出ていた。いずれ人間の歯槽骨を再生して、自前の歯を新しく生やす医療技術に結実するのかもしれない。
『コッポラの胡蝶の夢』という映画がある。ティム・ロスが70歳のときに雷に打たれて、どんどん若返るという話(『ベンジャミン・バトン』と同じネタ)である。
その中で、ぼろぼろになった老人の歯が抜けて、下から新しい歯がぐいぐいと生えてくる場面があった。
映画をみながら、しみじみ「羨ましいなあ」と思ったが、そういうことをちゃんと研究している人がいるのだ。
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