アメリカはどこへ行くのか

2008-11-06 jeudi

民主党のバラク・オバマ上院議員が第44代アメリカ大統領に決定した。
衰退期に入ったアメリカが ”Change the world” とあらゆる社会集団の統合を掲げた理想主義的なタイプの若い大統領を選択したことはこの国の「復元力」を証示したと言えるだろう。
しぶとい国である。
なぜ、この国が8年にわたってジョージ・W・ブッシュのような人物を大統領に戴いていたのか、私にはよく理解ができなかったが、今にして思うと「オバマが大統領になる」ためには、「直前がブッシュ」という条件が必須のものであったかも知れない。
もし、8年前の大統領選でアル・ゴアが勝っていたら(実際に票数では勝っていたんだけど)、バラク・オバマに出番はなかっただろう。(最初「4年前」と書いたけれど、新聞を読んでいるうちに思い出した。ゴアは8年前で、4年前はケリーでしたね。ケリーさん、影薄い・・・)
アメリカはテキサス「根付き」のカウボーイの「本音の政治」に飽き飽きしたので、アメリカの建国理念を教科書的な言葉でわかりやすく語る「建前の政治家」に乗り換えた。
この「揺れ戻し」はたいへん自然なものに思われる。
前に町山智浩さんから、アメリカではすべてのイノベーションが「外部から来たもの」によってもたらされ、非アメリカ人たちが「アメリカ的価値」をそのつど創造する構造になっているという話を聞いた。
『ラスヴェガスをぶっつぶせ』という映画ではカジノを出し抜くMITの学生は白人という設定になっているが、実話ではアジア系の学生たちだったそうである。
アメリカの大学院ではアジア系の院生たちが定員の過半を超えたという記事も最近読んだ。
アメリカというのは不思議な国である。
どんどん外部の「資産」を導入して、それを自分のところの帳面につけている。
「価値あるものの受け入れ」についてはきわめて開放的であり、それを「アメリカの収益」に計上する点ではきわめて閉鎖的である。
極端な閉鎖性と極端な開放性が同居している。
だから、私はアメリカがこのあと外交戦略などでこれまでより「開放的」になるというふうには考えない。
アメリカ国民は自己利益を確保するために「開放的なタイプの政治家」を指導者に選んだのであり、当然彼は全力を尽くしてブッシュが失った「国益」の回収に乗り出すはずであり、有権者はそれを期待している。
オバマは95%のアメリカ国民に減税を約束した。
でも、その原資はどこから調達するのであろうか?
アメリカの富裕層からであろうか?
まさかね。
彼は白人も黒人も、貧しいものも豊かなものも、「すべてのアメリカ人」の統合を訴えたのである。
富裕層に課税するような政策はこれと平仄が合わない。
アメリカを豊かにするための原資はおそらく「アメリカ以外の国」から調達されるのであろう。
現に学術領域でしているように。
麻生首相はオバマの大統領決定の報に苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
彼はアメリカの新大統領が「内側にいい顔」をする分だけ、「同盟国に渋い顔」をすることをおそらく予感しているのであろう。
どうなるのだろう。
アメリカの急速な没落にブレーキがかかったことを私は国際社会の一員として言祝ぎたい(アメリカのクラッシュは世界にとっての悪夢であるから)けれど、「統合されたアメリカ」が「非アメリカ」に対してこれまでより非利己的にふるまうという見通しには軽々には与することができないのである。
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