温泉発試写会着

2008-02-29 vendredi

バリ島から帰ったと思ったら、一日おいてすぐに箱根湯本へ。
今度は極楽麻雀である。
こうもスケジュールがタイトでは「極楽」というのもどうかと思うが、7ヶ月に一度はよし行け旅館に集合ということがクラブの規則で決まっているので、私の一存ではどうにもならない。
会議を終えてソッコーで帰宅して、荷造り。新幹線に飛び乗る。
車中でカミュ論の続きを驚異的な集中力で書き続ける。
8-9枚という原稿依頼だったはずだが、なんだかどんどん長くなる。
アカデミックな論考のあいだにはさまれる「息抜きコラム」のはずであるが、これでは読者が窒息してしまうのではないか。
7時半ごろに旅館着。夕方着の兄ちゃん、平ちゃん、石やんはもう宴会状態。
さっそくビール、日本酒などと頂き、宴会モードに切り替え。
食後さっそく卓を囲む。
ご存知のように、私は今期の甲南麻雀連盟では勝率1割以下という絶不調のうちにある。
この温泉麻雀も歴史的大敗を覚悟しての参戦である。
勝つはずがないと涼しく笑いながら打てば、それなりにかえって平静な心境となり、打牌に意外な冴えが・・・というような打算が一瞬私の脳裏をかすめなかったといえば嘘になろう。
だが、心せよ。雀神さまはそのような賢しらをこそ憎まれるのである。
勝敗に一喜一憂する俗情を咎め、勝敗意に介せずといった小面憎い気取りもまた許されない。
雀神さまはただ一打一打に感謝の思いを込めて無心に打つものだけを嘉されるのである。
12戦2勝。勝率1割6分7厘。勝ち点17という貧しい戦績がこのあとも私の前に広がるであろう終わりなき荒野を暗示している。
この試練は私が真の「無心」の境地を知るまで続くであろう。
今回の極楽ツァーの出費はすべて兄上の奢り。
私ども若輩三名は「ごっちゃんです」で済まさせていただいた。
まこと人間の真価は金持ちになったときに露呈するものである。

二泊の休暇を終えて、そのまま兄ちゃんの車で横浜へ。
みなとみらいクイーンタワーのFEEDのオフィスをはじめてお訪ねする。
19階から横浜港が一望という結構なロケーションである。
お茶して兄上と別れ、新宿へ。
午後は『考える人』の「日本の身体」第二回、池上六朗先生との対談。
橋本麻里さん、足立真穂さんという強力布陣によるこの対談シリーズは、各界の身体技法の達人たちを訪れて、日本人の身体運用の歴史と構造について深く考察しようではないかという意欲的な企画なのである。
池上先生のところにゆくと、「もれなく治療が付いてくる」ので、カメラマンも含めて全員がまず治療をしていただく。
もっとも体軸がゆがんでいるのは橋本さんであろうと思ったが、案に相違して(というか案の定)私であった。
働き(というかスケジュール詰め込みすぎ)である。
池上先生に付けていただいた「日本で一番不幸な人」という呼称はそのまま継続である。
4 時間ほどさまざまな治療技術の実演をまじえながら対談。
終わったあと、新幹線の時間まで赤羽さんたちとちょっとだけビールなどをいただいて池上先生とお別れする。
次は6月7日の本学での「身体性の教育」のシンポジウムでのゲストスピーカーでお会いすることになる。
新幹線車中でチェスタトンの『ブラウン神父の童心』を読んでいるうちに爆睡。

翌日はひさしぶりの半日休暇。
東灘区役所に行って印鑑証明と住民票を取り、郵便局で局留めの荷物を受け取り、家に戻って原チャリのナンバープレートをはずし、芦屋市役所へプレートを返却に行き、東灘区役所にまた戻って原チャリの転出届けをし、それからまた芦屋に戻ってナカジマモータースで自賠責の払い込みをする。
ここまで所要時間3時間半。
帰って掃除をしたら、半日休暇が終わってしまった。

夕刻日経ビジネスの取材。
NECが出すウェブマガジンのビジネス講話みたいな企画で、上司とどうつきあうかについて訊かれる。
上司というもののつきあいに特に悩んだことがないので、よくわからない。
今も職階上の上司はいるけれど、大学の教員組織は上意下達の命令ではないから、企業の人事の参考にはならない。
強いて挙げれば、私にとっての「上司」経験は、アーバン時代の平川くんと、極東物流創立時の兄ちゃんという二人の社長に仕えた二回だけである。
彼らはいずれもたいへん有能であり、かつお気楽な上司であった。
有能でかつお気楽な上司の下で働くのはたいへん気分のよいものである。
ということは、「上司をいかに有能かつお気楽な人物であらしめるか」ということが部下たちにとっての最優先の遂行的課題であることはロジカルには自明のことである。
上司の能力はおもに「部下掌握力」によって外形的には評価されるが、これは部下の側で「掌握されたふり」をすればただちに達成できる。
上司をお気楽な状態にするためにはなにをすればよろしいか。
これも簡単である。
彼の日常業務をできるだけ軽減する。報告、連絡、相談(いわゆる「ほうれんそう」というやつですね)をできるだけしない。なるべく権限委譲を引き受けて、自分の裁量でできることはしてしまう。会議はできるだけ開かず、やむなく開く場合には上司が言うことにはとりあえず何でもはいはいと頷いておく。頷こうが頷くまいが、実現できることは実現し、実現できないことは実現できないのであるから、同じことである。同じことなら会議がはやく終わる方が誰にとっても幸福である。
以上のような項目を履行するならば、上司を短期間に「有能かつお気楽な人物」に改造することが可能となるはずである。
少なくとも私が上司であった場合には、このような部下を持つと、つねに機嫌のよい状態をキープできるであろう。

取材のあと、ばたばたと西宮北口へ。
コーエン兄弟の『ノー・カントリー』(では意味がわからない。原題は No country for the old men「この国はもう老人が住めるところじゃね〜な」)の試写会。
ゑぴす屋さんのご招待であるので、ウッキー、ヒロスエ、エグッチという不思議なメンバーが揃っている。
映画はたいへん面白い。
いまハリウッドでこの種の不条理映画を撮れるのはコーエン兄弟とデヴィッド・リンチくらいであるが、リンチ映画よりずっとエンターテインメント。
映画評は来月のえぴすでね。
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