19回目の断筆宣言

2007-12-12 mercredi

12月は原稿締め切りが8本、校正が2冊、講演が2つ、取材が4つ、舞台が1つ。そのあいだに週四日授業をやって、無数の会議があり、大学基準協会に提出する官僚的作文とそのチェックがあり、合気道、杖道、能楽のお稽古があり、宴会があり、甲南麻雀連盟の年間王者争奪戦があり、煤払いと年賀状300枚にネコマンガを描く年末行事も控えている。
そこに毎日のように新規の執筆依頼、講演依頼、出演依頼がある。
もちろんほとんどはお断りしているのであるが、どうしても断り切れない事情のものも散見(どころではない)される。
私が「このままでは死んでしまう」と思うのも当然であろう。
というわけで発作的に(「またかよ」)2007年度末までのすべての新規事業の停止をここに謹んで宣言することとした。
次の仕事は4月以降ということで、ひとつご勘弁を。
むろん、今でもものを書く時間がないわけではないし、講演したり、人と会ったりするくらいのことはできないことではない。
けれども疲れてくると、だんだん「芸が荒れてくる」のである。
「荒れるほどの芸があるのか」というようなにくさげなることを言うものではない。
私の「荒れる」は語義とおりの「荒れる」であって、「暴力的になる」という意味である。
疲れ切った私を最後に奮い立てせてくれるのはもはや「攻撃性」しかないからである。
こんなことを書いたらどれほど青筋を立てて怒る人がいるだろうか・・・とか、この原稿を受け取った編集者はどれほど私に原稿依頼したことを後悔するであろうか・・・そういう不埒な妄想だけが私の命の残り火を賦活することができる。
結果的に、私が疲労困憊の中で書いたテクストは物議を醸し、デスクを激怒させ、しばしば編集者との怒号のやりとりのうちに「おめえのとこなんかに二度と書くかよ、バーロ」的な非社交的な別れの言葉を告げねばならぬ・・・といった事態が頻発することになるのである。
そういうテクストが「好き」という奇特な読者もいないわけではないし、私とて自分の攻撃性については「ききわけの悪い孫をやさしくみつめる祖父」のような慈愛にみちた態度をキープしている。
しかし、心優しいエディターたちはとんだとばっちりであるし、私も彼らを苦しめるのは本意ではない。
というわけで、私はこれ以上に「芸が荒れる」ことを望まないのである。
おそらく三月ほどの休養ののち、私はたいそうエディター・フレンドリーな書き手として再登場するであろう。
「もう、イジワルしないで、書かせてくださいよ〜。どんなテーマでも書きますから。原稿料? 滅相もない。もうオキモチだけで結構」というような適度にドメスティケされたウチダの姿をみなさんは桜の咲くころに見出すことになるであろう。
では皆さん、さようなら。
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