『氷山ルリの大航海』を見に行く

2007-06-30 samedi

浜畑賢吉さんから電話がかかってきて、「今度大阪芸大の学生たちのミュージカルの演出をしたから、見に来てね」というお誘いがある。
うん、いくよ、とご返事する。
ハマは(むかしからそう呼んでいるのでこの愛称でゆくことにする)私のとっても古い知人である。
私が25歳のときに知り合ったので、もう32年来のおつきあいになる。
ハマは知り合ったころは四季のスター俳優だったので、よくハマの出る四季の芝居を見に行った(『コーラスライン』とか)。
私が関西に来てからもときどきこっちで公演があるとお誘いの電話があって、るんちゃんと一緒にミュージカルを見に行ったりした。
しばらく音信が途絶えていたらこのあいだ電話がかかってきて、まるでさっきの話の続きをするようないつもの声で「あ、タツル、元気? オレさ、いま大阪芸大の舞台芸術学科の学科長やってんだよね」と知らせてくれた。
あらまあ、いつのまにか同業者になっていたのね。
こんど飲もうよ、そうだね。ひさしぶりだもんね、という会話がありつつもハマも私も死ぬほど忙しい身の上なので、なかなか会えずにいたのである。
谷町のNHKホールでミュージカルをやるというので、雨の中とことこ見に行く。
大阪芸大というと「中島らも?」というような時代遅れの連想する私であるので、学生のミュージカルといわれても、なんとなく昔の小劇場の、受付のところに差し入れの一升瓶が置いてあって、学生たちがばたばた走り回っているような風景をぼんやり想像して行ったら、ぜんぜん違っていた。
NHKホールでやる、という点で70年代的幻想から醒めておくべきであった。
ああ、びっくりした。
カーテンコールでハマが袖から出て来た。
むかしのまんまだね。
ハマももう60歳くらいのはずだけど、あいかわらず颯爽としていた。
受付の行列のところで芸大の学生たちが「賢吉さん、いた?」とか「学科長がさ」とか言ってるくちぶりからハマが学生たちからとっても愛されていることが伺われた。
舞台からも演出家の学生たちへの愛情がにじみでていた。
「今日はおまえら全員が主役のつもりではじけろよ」というハマの熱い思いがにじんだ舞台だった。
ハマはきっとすごくいい先生なんだろうと思う。
すぐれた俳優が必ずしもすぐれた教師になれるわけではない。
浜畑賢吉さんはその例外的なひとりである。
こんどゆっくり飲みましょうね。
--------