会議の効用

2007-01-13 samedi

1時から7時まで、午後ずっと会議。
「午後ずっと会議」という金曜日が年間20回くらいある。
みなさん、これは異常ですよ。
もし一般企業で管理職の人間がぞろりと並び大名のように雁首揃えて毎週六時間も会議をやっているようなことをしていたら、旬日を出でずしてその会社は倒産してしまうであろう。
一般に、会議というのを行うのは、上位者が独断で決めるより、衆議を集めた方がより正しい判断が得られる蓋然性が高いからである。
ただしこの場合、「衆議」といっても実質的な議論をしようと思ったら、会議のメンバーは「最大4人」ということはビジネスの常識である。
4人を超えたとたんに、斬新なアイディアを出し、それを具体化するプログラムを設計するという作業は膨大な時間とエネルギーを要するようになる。
だから「衆議を集めてよい知恵を出す」という目的のためなら構成員5人以上の会議をしてはならない。
しかるに昨日の会議は、最初のものが成員10名、次が20数名、三つめが48名、最後が20数名(よくやるよな、四つだよ)。
つまり、ビジネスの常識に照らすなら、これらはいずれも「衆議を集めてよい知恵を出す」ためのものではない。
では、何のためのものか。
審議される原案が実施された場合に何らかの影響をこうむる可能性のある人間を集めて、「こういうことをやりますけれど、よろしいですね」という「告知」を行い、それに「頷いた」という事実を確認して、そののち機関決定を履行しない教員がでないようにするためである。
この文章を読んで「え?」と思った方、あなたは常識ある人である。
この文章は論理的に二点の間違いを含んでいるからである。
第一に、「こういうことをやりますけれど、よろしいですね」というのは「告知」であって「審議」とは言わない。
会議で議することの90%すでにその前の「瀬踏み・根回し」作業において実施することが決定しており、会議を招集するのは、その「下ごしらえ」作業に参加していない人間に「やりますよ」と公的に告知するためである。
告知するだけであれば、メールで流せば済むことであるが、そうならないにはわけがある。
「こういうことをやりますけれど、よろしいですね」という「告知」に「頷く」という儀礼が必要だからである。
というのは、機関決定はその議案に反対した人間をも拘束するという「常識」が大学というところでは通用しないからである。
これが二つめの非論理的誤謬。
教授会決定したことであっても、「オレは(教授会休んだから)聞いてない」とか「私はだいたいあの案には反対でした」とか「いや、あのときと今では事情が違うでしょう、もう」ということを理由に、機関決定の履行を拒否ないし勝手に割り引きする教員たちが現に存在し、それがしばしば「あ、そうですか・・・」で通ってしまう世界なのである、大学というのは。
だから会議の席で、あれこれと説明の労を取って、なんとかみなさまには機関決定に「頷いていただく」という作業が不可欠となるのである。
これは「周囲の過半数の人間が同意していることには、つい同意してしまう」という日本人の付和雷同体質と、「人間はよく思案していないことでも、いったん頷いたことについては、『私の判断は正しかった』と思いたがる」という自己愛を利用した、ある意味では狡猾な集団統御方法なのであるが、それにしても手間ひまのかかることであるよ。
もちろん組織を上意下達のツリー状組織に改編してしまえば、会議なんか必要なくなる。
兄ちゃんの会社の年商は本学と同じ規模だが(大学の場合は帰属収入のことを「年商」とは言わないが)、会議は月に1回、それも20分程度だそうである。
「どうして兄ちゃんとこは会議やらないの?」と先日露天風呂に浸かりながらその兄に訊いてみた。
兄の答えはつぎの通り。

「だって、新しいこと提案すると、ほとんどの人が反対するでしょ。みんな現状を変えたくないんだよ。だからさ、『いや、やってみてうまくいかなかったら、すぐもとに戻すからさ。実験的にとりあえずやってみましょう』とごまかして強引に導入しちゃうの。最初はぶうぶう文句言ってるけど、二ヶ月もするとみんな新しいシステムにすっかりなじんでしまって、『どうもうまくいかないみたいだから、もとに戻そうか?』と言うと、今度は全員『このままでいい』って反対するんだよ。『このままでいい』っていうのが人間の基本なの。いいシステムだからいいんじゃないんだ。変えたくないからいいんだよ。会議やってみんなの意見を訊いたら、結論は『このままでいい』に落ち着くに決まってる。だから、人事とかビジネスモデルとかは会議に諮っちゃいけない。社長が独断で決めるものなのよ。」

さすがトップマネジメントの方は洞察が深い。
まるで昨日の総文科別教授会の議事をそのままに言い当てているようである(私もカリキュラム改正案につい「別にこのままでいいんじゃないの」と言ってしまったし・・・)。
ま、大学はビジネスやってるわけじゃないから、それでよいのかも知れないが・・・
それにしても会議減らしませんか。
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