甲野先生の講演会と講習会

2006-12-22 vendredi

12月20日に甲野善紀先生の講演会と講習会が開かれた。
思えば、はじめて甲野先生を本学にお迎えしたのは、911テロ直後の2001年12月の初めのことであった。
あれから5年。
早いものである。
その間に甲野先生には守伸二郎さん、名越康文先生、光岡英稔先生、高橋佳三さんと次々と驚嘆すべき人々にご紹介を頂き、その方々との出会いから私はまた多くのものを得ることになった。
先日終わった朝カルの「武術的立場」はその守さん、高橋さん、それに平尾剛さんという「甲野善紀先生の身体技法にインスパイアされて、それぞれのエリアでイノベーティヴな活動をしている次世代の旗手たち」との連続対談であり、献辞を付すとすれば、これは当然 dedicated to Master Kono Yoshinori と記されねばならないのである。
この連続対談シリーズはまた5年にわたって甲野先生から直接薫陶を賜ったご恩に対する私自身の現段階での「研究報告」でもある。
そういう記念すべき5周年に、ご多忙な中甲野先生に来学頂いたことをまず感謝したい。
今回は実技に入る前に90分間、大学の教室を使って「武術的身体技法の意味」について講義をしていただくことにした。
甲野先生はすぐに「じゃあ、ちょっと・・・」と立ち上がって実技に入ってしまうので(ヒルトンホテルのロビーでさえ)教場での講義というのは珍しい。
私は先生の技法と同じように、先生が大量にストックしている「不思議話」を伺うのが大好きである。
以前、その「不思議話」だけを収録した書物を企画したことがある。
甲野先生と名越先生の経験した「不思議なこと」ばかりを20時間録音し、『邪悪なものの鎮め方』とタイトルまで決まっていたのであるが・・・いろいろ差し障りがありすぎて、いまだ書籍化しないのである。
生霊が飛び、式神が電話線の中を潜り抜け、UFOが新幹線に並走する話なので、あるいは出版コードに抵触するのかもしれない。
今回はそういう不思議系の話ではなく、科学技術と量子力学の話。
はじめて甲野先生と出会う学生たちはびっくりして聴いている。
それからミリアム館に移動して、3時から5時半まで、甲野先生とご令息の陽紀(はるのり)さんのご指導で実技講習会。
こちらには平尾剛さんと瓜生靖治さん神鋼ラグビー部のお二人がお見えになっている。
瓜生さんは甲野先生の術を見るのははじめてである。
体重が20キロくらい軽い細身の甲野先生に軽がるとタックルをかわされ、ハンドオフをつぶされて、なんとも「腑に落ちない」という顔をしている。
この「腑に落ちない」感じが甲野先生の術を受けたときの実感である。
将棋で「王手!」と駒を打ち込んだら、「あ、その飛車、ロン」といわれたような割り切れなさといえばお分かりいただけるであろうか(よけいわかりにくいか)。
身体を精妙に使うことのたいせつさを今回も骨身にしみて学ぶ。
特に、腕の筋肉を「張るでもなし張らぬでもなし」という中間状態にもってゆくために「爪に火をともす」「針先で鱈子の粒を一つ一つつぶしてゆく」というふうに指先の感度を上げるという術理には深く納得した(早速翌日の合気道の稽古では、この「中間状態の手」を作るためにあれこれと工夫をしてみる)。
講習会の風景はビデオ撮影。
甲野先生にも大学の受験生用パブリシティにちょっとだけご協力願うことになった。
あっというまに2時間半の講習が終わり、懇親会でも甲野先生を囲んで武術談義がいつまでも続いた。
いつものようにまことに愉しく、有意義な一日でありました。
甲野善紀先生、陽紀さん、どうもありがとうございました。
また、来年もよろしくお願い致します。
今回の企画にご協力くださった、大学入学センターの企画広報、大学研究所に感謝致申し上げます。

甲野先生講習会のあとで。左から甲野陽紀さん、私、甲野善紀先生、平尾剛さん、
瓜生靖治さん
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