生トム

2006-06-23 vendredi

三宅先生のところに治療に行って、その足で下川先生のお稽古へ。
『土蜘蛛』の相方のドクター佐藤が当日参加できなくなってので、代役のO川さんと仕舞のお稽古。
はじめて素を四つ投げる。
頼光の全身に素が絡まってすごいことになる。

いったん家にもどってから今度は毎日新聞社へ。
紙面研究会の発題者にお招き頂いたのである。
記者のみなさんを前にして紙面に文句をつけるお仕事である。
ほかはともかく人の悪口を言うことについてなら私はかなりの自信がある。
せっかくのお招きであるから、「ここまで好き勝手を言える立場か・・・」とみなさんが絶句するくらいのことを申し上げようと気合を入れて梅田に出かける。
聴衆は各セクションのデスク、部長、論説委員のみなさん。
あらかじめ問題として取り上げる紙面を示し、どこに問題点があるのかについこちらから意見書を出した上で、先方の「言い分」を聞くというのが定型なのだそうである。
これはいかがなものか。
官僚の国会答弁じゃないんだから。
批判される側が「批判のフォーマット」を批判者に対して指定するというのは、「できるだけ批判されたくない」と言っているのと変わらない。
できるだけ批判されたくないのは人情であるから、私にもよく理解できる。
しかし、毎日新聞社は誰に命じられるでもなく、進んで批判に身をさらそうとなさっているわけであるから、「批判はもちろんされて結構なんですけれど、まあ、そのへんは魚心あれば水心ということで・・・」というようなことはされないほうがよろしいのではないか。
「表出ろコノヤロー、勝負つけたろやないけ」とすごんだあとに、「ぐうでぶつのなしね」というのではいささかアンチクライマックスである。
とはいえ、私もすでに齢還暦に近い老骨であり、聴衆の過半はすでに私よりも年少のみなさまである。いつまでも「権力に抗うストリート・ファイティング・キッズ」の風儀ではいられない。
あのね、おじさんはこんなふうに思うんだよ・・・とちょっと遠い目をしてお話をさせていただく。
いろいろとご反論もあろうが、まあ年寄りの言うこともたまには聞いてみるもんだよ。
論じること70分。
この顛末は来週あたりに毎日新聞の朝刊の「紙面研究会」のレポートとして採録される。

次まで時間が少しあるので阪急百貨店でワイシャツを仕立てる。
ついでに2Fのマックス・マーラー売り場に寄って、オガワくんを激励しようと思ったのだが、残念ながら本日は病欠。
大阪能楽会館に顔を出して、『田村』の最初の次第だけちょっと拝見してから、ナビオへ。
『M:i:III』の試写会。
今回はトム・クルーズくんが舞台挨拶に来るというので、カメラマンがひしめいている。
ウッキーやタニオさんも携帯カメラを用意して「生トム」を撮ろうと待ち構えている。
場内での写真撮影は禁止ですとアナウンスされているのだが、誰も聞くやつはいない。
IT秘書のイワモトくんは「生トム」には例のごとく何の感興も示さなかったが、通訳として舞台に出てきた戸田奈津子には身を乗り出して、「おおお、生戸田だ」と興奮していた。
不思議な青年である。
戸田奈津子のどのへんが彼の琴線に触れたのかちょっと知りたい気もするし、知らないほうがいいような気もする。
映画はなかなか面白かった。
映画評は来月の読売新聞エピスをご覧ください。

映画のあと、トムのセキュリティに動員されていた越後屋さん、亀寿司でのんだくれていた山本画伯も合流して、居酒屋でプチ宴会。
帰りのJRの車中でタニオさんが『身体を通して時代を読む』と『身体知』を取り出してサインをしてくださいというので、さらさらとネコマンガを描く。
するとウッキーが映画のパンフレットを取り出してサインをしてくださいというので、To Ukky Tom Cruise とサインをする。
「わーい、ウチダ先生の偽筆のトム・クルーズのサインだ」と喜んでいる。
そんなものがうれしいのなら、キアヌ・リーブスのサインでもジョニー・デップのサインでも、いくらでも書いてあげるよ。
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