王ジャパンの勝利を嘉す

2006-03-21 mardi

ついついWBCの決勝戦を最後まで見てしまった。
まあ、見るよね。
休日の昼なんだから。
昼飯くってごろりとしてテレビを点けたら、なんと日本がキューバに勝ってるじゃないですか。
そのままアイロンかけをしたり、道着の破れを繕ったり、買い換えた携帯に情報を入力しながら最後まで見てしまった。
やあ、勝ったね。
勝ってよかった。
ご存じのとおり、私はこういう国際試合で熱狂的に自国を応援するタイプの人間ではないけれど、勝つ方が負けるよりもずっとよい。
その理由についてはオダジマ先生がたいへん洞察に富んだことを述べておられるのでご紹介したい。
WBCの結果について、オダジマ先生はこの1月には「優勝はない」という見通しを語っていた。

「野球はおそらくアテネオリンピック(→金メダルを当然視されながらの銅、しかもアマチュアのオーストラリアに二連敗)の二の舞に終わる。また順位とは別に、対韓国戦で惨敗するようだと、われわれのプライドは、その時点で著しく毀損されることになる。」(『九条どうでしょう』、毎日新聞社、113頁)(←そろそろ発売かな)

オダジマ先生、予測はずれちゃいましたね。
オダジマ先生は日本の敗北を恐れておられたけれども、それには十分な政治的理由がある。
覚えておいでであろうか。
2004年のサッカーアジアカップは、おおかたの日本人にとって、テレビの映像で中国の強烈な反日感情に触れたはじまりだった。
重慶でも北京でも、観客のブーイングはすさまじいものであった。
アジアカップを契機に噴出した反日感情とそれに対抗して亢進した国内での反中機運の高まりをオダジマ先生はこう総括する。

「救いは、最終的に日本が優勝したことだった。
もしあの状況で、半月以上にわたる執拗な侮蔑と失礼にさらされながら、私たちの日本代表が最終的に中国に負けていたら、われわれの対中感情はもっと致命的に硬化していたはずだ。
『ざまあみやがれ』
という感情は、もちろん立派な反応ではないが、それでも
『ちくしょう。おぼえてやがれ』
よりはずっと良い。
屈辱は、国家の健康状態にとって、最悪な危険要因になる。そういうことだ。」(119頁)

WBCでは、日本は一次リーグで中国に18-2と大勝、韓国には二敗のあと準決勝で6-0で雪辱を果たした。
問題のアメリカには「疑惑の判定」で敗北を喫したが、そのアメリカが二度目の「疑惑の判定」でモチベーションを上げたメキシコに惨敗して、日本はアメリカを退けて準決勝進出ということになった。
つまり、「ちくしょう。おぼえてやがれ」的メンタリティが日本国内に瀰漫するとたいへん危険なことになる対戦相手を幸いにもことごとく制したのである。
私が深く安堵する理由もおわかりになるであろう。
やあ、勝ってくれてよかった。
王監督ありがとう。イチロー選手も松坂選手もごくろうさん。
WBCに勝利することがわが国の「国家の品格」の向上に資するとは別に思わないが、こういうものにボロ負けしたあとに、「ちくしょう」的に鬱積する排外主義的エネルギーが「国家の品格」を下落させる方向に働くことは間違いない。
そうである以上、この優勝で「日本の品格」が維持されたことについて、王ジャパンの監督・選手ご一同に対して心からの感謝を申し上げたいと思うのである。
みなさんのおかげで日本人はしばらくのあいだ、中韓米に対する「勝ち負け」に感情的にのめり込む機会をスルーすることができる。
「勝つ」ということのもたらす最良の功績は、「勝ち負け」についてしばらくの間考えずに済むということである。
王ジャパンはティファニー製の優勝トロフィーよりもずっと価値のあるものを日本人に贈ってくれたのである。
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