東奔西走

2006-02-01 mercredi

入試の採点。
たいした枚数ではないので、すぐに終わる。
すぐに終わるのはうれしいのだが、それは志願者が減ったということであって、大学経営上はいささかもうれしいことではない。
1月30日現在の本学の志願者数は前年度比82.2%。
まだ確定した数字ではない。
文学部は前年比91.6%と健闘しているし、音楽学部は舞踊専攻を新設したので、110%だが、人間科学部の66.4%が痛い。
総合文化学科は前年比でプラスになった。
それが不思議である。
正直申し上げて、人間科学部はさまざまな新しいプログラムに意欲的かつ組織的に取り組んでいるのに対して、わが総文はそれほど組織だったことはしていない。
三年ほどまえにカリキュラムをかなりさわったが、できることはだいたいやってしまったので、もう「打つ手がない」というのが本音のところである。
とりあえず、日々の教育活動をていねいにする他にはすることがない。
しかし、それが意外に奏功しているという考え方もできる。
新学部新学科新プログラムというのは、志願者に対するアピールである。
「これからこんなすばらしい、時代のニーズにキャッチアップした教育が行われますよ!」と対外的なパブリシティに力を入れるということは、在学生に対して「キミたちは時代のニーズに遅れた、あまりぱっとしない教育を現に受けているということだよね」と告げているのにひとしい。
実際にそんなふうにへそをまげる学生はいないだろうけれど、対外的にアピールするために限りある教育資源を投じてしまうと、在学生に対する気づかいがその分目減りすることは避けがたい。
この「さじ加減」がむずかしい。
総文は志願者を増加させるためのアピーリングな事業をあまりやっていない。
総文叢書というものを出しているけれど、地味な出版事業だから、高校生にその学術性が評価されるとは考えにくい。
三年ほど前から、一年から四年までの全期間にゼミを必修として、クラス担任のようにゼミの教員がかなり細かく面倒をみるシステムを導入したけれど、「かなり細かく面倒みてます」というだけのことであって、あんまり面倒みてない教師ももちろんいるし、「干渉してほしくない」というインディペンデントな学生さんもむろんおいでになる。
その教育効果を数値的に示せといわれても、困る。
個人的には、廊下ですれ違うときに「あ、先生、こんちは」と挨拶する学生の数が増えたし、「相談があるんですけど」と言ってくる学生が増えたし、「先生のうちに行っていいですか」とわが家を宴会場がわりに使う学生の数が増えたということは事実としてあるけれど、こんな数値を統計的に処理して文科省に提出するわけにゆかない。
でも、私は存外「そういうこと」がたいせつなんじゃないかと思っている。
本学程度の規模の大学の場合、卒業生が「やあ、なかなか楽しい四年間だったなあ」と思ってくれて、それを機会があるときに「ぽろり」と周囲に漏らす程度のパブリシティで、そこそこの志願者は集めることができる。
別に何万人も要るわけじゃないんだし。
どうしようどうしようとあれこれ工夫することもたいせつだけれど、今いる学生たちと日々愉快に過ごす方が結局長いスパンでは有効なのではないかという気が私にはする。
こっちも楽だし。
それでも何か「ありもの」の組み合わせで新機軸を出しましょうということになって、副専攻プログラムというものを教育開発センターのU野先生を中心に起案している。
私はなぜか「アートマネジメント副専攻」というもののコーディネイターに指名されてしまった(相方は指揮者で識者のナカムラケン先生)
さいわい、うちの長屋には国立劇場のヤナイさんがいるし、「アート」といえばコバやんとともちゃんに講師で来てもらっているし、音楽学部の先生たちはパフォーマーとして現場に日々かかわっているわけだから、人脈はいくらでもある。
そういう先生方をリンクして、将来的にアートマネジメント関係のお仕事なんかやってみようかな・・・という学生諸君に専攻の他に10単位ほどの特設科目の単位を取って頂くという趣向である。
うん、なかなかいけるんじゃないの。
お金がほとんどかからない、というところが特によい。
「メディア・コミュニケーション」副専攻の仕切りはナバちゃん。「ホスピタリティ・マネジメント」の仕切りはコトコ先生とD口先生。
それだけでは数が足りないからもう一つとU野先生に頼まれて、私がとっさに考えついたのが「ボディ・サイエンス」副専攻。
舞踊専攻にはシマザキ先生がおられるし、人間科学部にはお医者さまたちが揃っているし、もちろん体育の先生もいる。
客員教授に甲野善紀先生と池上六朗先生をお招きして、三砂ちづる先生に集中講義に来てもらって・・・とあれこれ考えると、なんだかずいぶん楽しそうなプログラムである。
考えるだけならタダなので、ふわふわと空想をめぐらせる。

採点が終わって家に戻ると、『ミーツ』の取材と撮影。
スーツについての一家言を述べ、あわせてコルネリアーニのスーツでびしっと決めたところを写真で撮るというご趣向だそうである。
あ、そうですか。
スーツ着るの?
めんどくさいなあ。
とはいえ、大迫力と書いて「おおさこちから」と読むオーサコくんの「身内」からの依頼であるから断るわけにはゆかない。
ウチダはオーサコくんといい越後屋さんといい「身内からの依頼」に弱い。
『チャングム』におけるチェ尚宮的「身内びいき」体質なのであろう。
カメラマンの石本さんにしゃかしゃかと写真を撮ってもらってから、次の取材先の北野に向かう車で、元町の大丸まで送ってもらう(「よいカメラマンは仕事が速い」の原則を今日も確認)。
壊れた鞄の修理をお願いしてからとって返して肥後橋へ。
ゼミの卒業生で長屋に「だからどうだっていうのよ日記」を書いているタダヒロコくんを江さん青山さんとお引き合わせするためである。
前日平川君も来たという喜作にて、前日平川君も食べたという「するめの天ぷら」を食べつつビールと焼酎をいただく。
江さん青山さん、販売部長の中島淳と書いて「ナカジマ・アツシ」と読む中島さん、それに取材帰りのオーサコくんも加わって、なんだかよくわかんない宴会になる。
平川・ウチダを相手に連夜の宴会では、みなさんさぞや心理的にも胃袋的にもお疲れになったことであろう。
ごめんね。
この決着は4日の「甲南麻雀連盟第二回例会」で。
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