煤払い三日目は冷蔵庫の「ジャンク」を掃除するのと、ガスレンジの汚れをこそぎ落とすのにえらい時間がかかってしまい、居間の床掃除にたどりつけないうちに「ピンポン」とチャイムが鳴った。
まずカンキチくんが登場。
そう、本日は栄えある甲南麻雀連盟の「打ち納め」の例会なのである。
九月に発足して以来、たちまちのうちに私の周囲には時ならぬ「麻雀ブーム」が起きた。
「私も、私も」と手を挙げて参加を求める人々が列をなし、彼らを受け容れるために、ついにわが同盟は「J2」制採用に踏み切ったのである。
それというのも、釈老師から「牌」と「麻雀卓」のご恵与を賜ったおかげである。
いつもおみやげを手に登場される釈老師であるが(今回は私に「松竹梅」の盆栽という季節感あふれるおみやげをご持参いただいた)、その法界無辺の御慈悲は私ばかりでなく、雀友のひとりひとりの上にあまねくゆきわたっている。
老師の「これですね」というほほえみとともに卓に打ち付けられる当たり牌に「はい、老師、それでございます。チーロンパ」と応じる衆生の頭上には施行の点棒が豊かに投じられ、私どもはこれを「釈老師のバクシーシ」と呼んで、われさきにその法恩に浴すべくテンパイを競っているのである。
すでに老師はわが同盟に「麻雀マット」をご恵贈されており、マット裏には「釈老師より雀贈。甲南麻雀連盟はいつまでもその雀恩を忘れない」と黒々と大書されているのであるが、それに加えての牌と卓のご恵与である。
甲南麻雀連盟にはその用具に至るまで弥陀のご加護が刻印されているのである。
合掌。
カンキチくんに続いて、その老師が登場。
四人目を待ちながら、まずビール。
スペインの湯川さんから麻雀における非言語的コミュニケーションのあり方について鋭いご意見を頂いて脳が活性化したウチダは「人生は麻雀の縮図だ」(@釈老師)ということばの新解釈についてここで一家言を述べる。
麻雀において、意識的活動は「卓」の上の「牌」のやりとりに集中している。
牌はそれ自体が言語記号であり、私たちはこれを用いて、統辞的に整った「手」というセンテンスを構築すべく努める。
つまり、卓上で営まれているのは、記号形成活動そのものなのである。
ということは、そのとき牌をさばいている打ち手の口から出る言葉は定義上「言語」ではありえない。
それは「無意識のシニフィアン」である他ない。
私の亡父は、麻雀の卓を囲むとき、他人の打牌を見て「はあ、はあ・・・母の三回忌」とつぶやく不思議な口癖を有していたが、そのとき父の無意識にいかなるトラウマ的情景が去来していたのか、おそらく父自身も言語化することはできなかったであろう。
風牌をポンしたときに必ず江さんがつぶやく「そこにーはただ、風が吹いているだけー」(@はしだのりひこ)や、放銃のあとに罵詈雑言を発する打ち手に「過ぎてしまったことは、しかたないじゃないのー」と低く歌うドクターの行為を私はあえて「言語活動」とは呼びたくない。
この無意識のシニフィアンの特徴は「同期」である。
風牌をポンしたときに、残る三人が同時に「そこにーはただー」と歌い始めるとき、そこには中枢的なコンダクターは存在しない。
私はこれを「自己組織化」あるいはスティーヴン・ストロガッツにならって「SYNC」と呼びたいと思う(「SYNC」というのは考えてみると「CSNY」のアマルガムなのであった。「CSNY」などと言っても若い方はご存じあるまいが、Crosby, Stills, Nash & Young の略称である。思えば、昨日の麻雀でもBGMは彼らの音楽であった。おおなんという synchronicity)
ともあれ、麻雀の現場というのは非言語的=無意識的行為が無数のシンクロニシティをおびき出す異様な空間なのである。
「おお、これが当たり牌だ」という確信がしばしば打ち手には訪れるが、この判断にはほとんど外形的な根拠はない。
しかし、なぜかそれが「わかる」のである。
それはある種の「共身体」を打ち手が共有したことの効果である。
だから、早い順に立直をかけたにもかかわらず、三人ともぴたりと当たり牌を止めて流局になることがしばしばあるが、それはコミュニケーション的にはきわめて「よい場」が成立したことの証拠なのである。
現に、そのような場が成り立ったときの麻雀は、勝ち負けを超えて、「よき雀友」に出会えたことの高揚感と愉悦をもたらしきたすのである。
というような話をしているうちに四人目のシャドー影浦が登場して、さっそく開始。
そこに少し遅れて江さんが来て、神鋼スティーラーズの平尾さんが来て、「女流名人」飯田先生が来て、まなじりを決した青山さんが来て、ドクター佐藤が来て、出張でご不在の越後屋さん以外の全会員が揃い、ついに甲南麻雀連盟は栄えあるJ2開幕戦を迎えたのである。
J2では飯田先生、青山さんの「女の戦い」が激烈な展開。
その結末については礼儀上ことあげを慎むことにしたい。
爆笑のうちに深更に至って、無事打納めて、シャンペンとスモークサーモンで乾杯。
さて、この四半期の最終成績であるが。
おほん。
ダントツのトップはこの日連続四回トップを取って大勝を収め、ついに勝率を3割9分に乗せた私である。
前回までの累計166に178を加えて、トータル344。
なはは。
二位は江さん。
一時は勝率4割を超えて、無敵を誇った岸和田ごんたくれ麻雀であるが、東京シティボーイのクールでソフィスティケートされた麻雀に一歩及ばずの208。
ぐふぐふ。
江くん、いつでも来たまえ。お相手しよう。
三位は何と本日初参加で6割6分7厘という驚異的な勝率を残した輝けるジャパンのウィング平尾剛史選手のプラ49。
プラスは以上3名のみ。
J1メンバーについてのみ記すならば、ドクター佐藤は「酔拳」麻雀で大勝したものの、「あれは翌日がつらいです」ということで、必勝のスタイルを発見できぬままマイナス54。
どこかで弥陀のご加護が天上的な介入を果たすのでは・・・と不安視された釈老師はマイナス57という節度あるカルマ落としを達成されたのである。
甲南麻雀連盟のみなさん、また来年もよろしくね!
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(2005-12-28 21:30)