フランス語による合気道ワークショップ

2005-11-26 samedi

アントワープからダンサーたちがやってきた。
本学の音楽学部には来年度から舞踊専攻が発足する。その記念イベントのひとつとして、本学の教授になったコレオグラファー島崎徹さんの振り付けで舞踊公演をすることになった。
二日前に十代のダンサーたちが14人、大学にやってきて、大学内の宿舎に泊まって、島崎先生のレッスンを受けている。
彼らを歓迎するために、学内でもいろいろと催しものがあり、その一つに「合気道ワークショップ」というものが企画せられた。
その他にも茶道とか華道とか、いろいろ体験されるようである。
はじめは合気道の練習を見せるだけかなと思っていたのであるが、島崎先生にお訊ねしたら、「あの子たちはとにかく身体を使うことは大好きですから、ぜひやらせてください」とおっしゃるので、一時間のワークショップをすることにした。
若手のプロのダンサーたちが合気道のエクササイズをどんなふうに楽しんでくれるか考えたらちょっとわくわくしてきた。
フランス語で指導せねばならないというのがいささか面倒であるが、ほかのことはともかく、レヴィナス老師について語る場合と合気道について語る場合に限り、私のフランス語運用能力は例外的に向上することが経験的には知られているので、「ま、なんとかなるでしょ」と、電子辞書を片手に会場に出かけた(電子辞書は説明の途中で「えーと、『横隔膜』って何ていうんだっけ」というような窮状に遭遇した場合に「ちょっと待ってね」と仏和辞典を引くためである)。
アントワープから来た少年少女たちが11時に会場のレッスン場にやってくる。
だいたい同数の合気道部員が揃ってくれたのでお出迎えする。
いささか眠そうな顔をした方も散見されたが、彼らとてどういう事情でこんなところに引っぱり出されたのかよくわかっていないらしく、「はい、靴下脱いで、あっちに座ってね」と言うと、「あの・・・ぼくたちもレッスン受けるんですか?」と訊ねられた。
当然である。諸君は道場では私の指令に従う他ないのである。
まず柔軟体操。
さすが。身体を動かし始めると、全員が一気に深いコンセントレーションに入る。
おお、両足が180度開くじゃないか。
ま、それも当然だが。
そして、呼吸法。
こういう状況では多田塾合気道の気の錬磨プログラムはたいへん汎用性が高い。
呼吸合わせをしたあと、四種類の転換を試みる。
転換動作を説明しながら、「運動には支点をもつヒンジ運動と支点を持たない運動があり、諸君は支点をもたない運動を習得せねばならないのである」といきなりややこしいことを言う。
さらに「接点は正中線上に保持せねばならない」、「転換動作の軸足は床についてはならない」、などとむずかしい注文をつける。
理想的には両足が空中にある状態で180度の体の転換を行わねばならない。
これはもちろん物理学的には不可能なことであるが、人間の身体というのは「そういうこと」ができるのである。現に、ほら先生はできちゃうでしょ。
さすがに日頃自分の身体能力をていねいに吟味し、十分な自信を有している若者たちであるので、「むずかしいこと」を課題にされると俄然熱くなる。
最後にウッキーを受に呼んで、何種類か合気道の技をご披露する。
合気道の技は相手を攻撃したり傷つけたりするためのものではなく、接触の瞬間に発生する「足が四本、手が四本、頭が二つ、体が二つ」ある複雑なる構築物に固有の構造法則、運動法則を瞬時に理解し、それを統御する技法である。そのために要請されるのはデリケートな身体感受性と二つの身体から成る複素的身体を統御する高度な技術なのである、という持論を申し上げる。
私の合気道術理は「たいへんややこしい」のであるが、どういうわけかこの種の「たいへんややこしい」ことを述べるためにはフランス語は日本語以上に適切な言語であるので、すっかりいい気分になってわはははとウッキーを投げまくる。
あっという間に一時間のワークショップが終わり、みんなで記念撮影。
ここぞと「三教のポーズ」「シリウスのポーズ」など定番の写真撮影用のわざを繰り出す。
まことに気分のよい若者たちであった。
彼らの短い日本滞在が愉快なものであることを祈念する。
彼らの公演は30日の水曜日、芦屋のルナホールである。(18時から)
まだチケットがあるはずだから、阪神間にお住まいの方はルナホールにぜひ行ってあげて応援してあげて下さい。
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