つくばエクスプレス殺人事件

2005-11-24 jeudi

死のロード二日目。
学士会館で深い眠りより醒める。
学士会館には年間10回から15回ほど投宿するので、何というか「枕が合って」きている。
この場所は皇居の真東数百メートルのところであり、都内でもっともきちんと呪鎮がなされているエリアであるはずだから、寝心地がよくて当たり前なのである。
帝国ホテル、パレスホテルなど一流のホテルやGHQが皇居のすぐ横にあったのは、単なる地理的利便性によるのではなく、このエリアにいると「気持ちが落ち着く」ということが経験的に確証せられていたからではないだろうか(その割には「○紅」という冷静さにも倫理性にもいささか問題のある商社もこのエリアにはあるが、これは隣接する「将門首塚」の霊的影響であろうと推察される)。
学士会館からタクシーで秋葉原へ。
「つくばエクスプレス」に乗ってつくばまで45分。
つくば駅に高橋佳三くんがお友達の小磯さんとお迎えに来てくれる。
お二人と荒涼たるつくば郊外をドライブしてお昼を食べる。
高橋くんは甲野先生門下の俊英であるが、本業は筑波大学のバイオメカニクスの研究者なのである。今回の日本体育学会のホスト側の実行部隊のひとりである。
高橋くんのご案内でシンポジウム会場へ。
コーディネイターの清水諭先生、司会の高橋和子先生(一昨年の本学での身体文化学会においでいただき、私はそのときには舞台裏でお茶くみをしていたので旧知の人なのである)、パネリストの先生方とご挨拶ならびに名刺交換。
シンポジウムに先立って養老孟司先生の講演があるので、会場にゆき、養老先生をつかまえて「やや、先生、ご無沙汰をしております」とご挨拶。
そのあと先生の講演を拝聴。まことに明晰にして痛快な講演で、隣席の高橋君ともども腹を抱えて笑う。
その後シンポジウム。ボディワークの遠藤卓郎先生、柔道の野村忠宏選手(柔道オリンピック三連覇のあの野村選手)とナショナルチームの強化コーチである岡田弘隆先生、そして私という組み合わせで「身体からの体育スポーツ科学:トータルな実践知の構築に向けて」という主題で2時間。
何も事前に用意しないでいったのだが、昼飯を食べながら高橋君相手に学校体育の悪口をがんがんしゃべっていたので、その余勢を駆って勝手なことを述べ立てる。
だいぶ時間が超過してシンポジウムが終わり、講演に来ていた新潮社の足立さんと一緒に高橋くんの車でつくば駅まで送ってもらう(高橋くん、一日フル・アテンダンスでありがとうございました!)
足立さんとおしゃべりをしているうちに秋葉原。足立さんと養老先生とは来週の水曜に対談でこんどは大阪でまたお会いするのである。
東京駅まで走って行って、大丸の椿山荘で1時間ほどのインタビュー。
N産自動車がトヨタのレクサスに対抗して開発する上流階級オリエンテッドな高級車の需要についてのマーケットリサーチである。
どうして私のようなものに「超高級車の需要」についてご下問があるのかまったく意味不明であるが、先方がご意見を訊きたいといってくるものを「意見などありません」と木で鼻を括ったような応接をするのも良識ある社会人としてはいかがなものかを思ってお受けしたのである。
車というのが理想自我の記号的表象であること、象徴価値をおもな価値形態とする商品であること、消費者の欲望を喚起するのは「それを買うことができない社会集団からの羨望の視線」であること、「それを買うことができない社会集団」が自発的に創作する「ブランド神話」の密度が商品の付加価値を形成することなど、自明のことを申し上げて走り去る。
このようなバカコメントに大枚の取材費を投じていてはN産自動車がどれほど潤沢なパブリシティ予算を計上していても追いつくまいとひとごとながら心配。
新幹線の中で『中央公論』の甲野対談のゲラ直し。
もう一つ本日締め切りのゲラがあったのだが、これはメモリー・スティックから取り出す時間さえなかった。
綿のように疲れて12時に帰宅。
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