『街場のアメリカ論』は誰が読んでるんだろう

2005-10-26 mercredi

『街場のアメリカ論』が意外によく売れている。
アマゾンの「社会・政治」エリアで8位。「外交・国際関係」で3位。
「意外に」というのもM島くんに失礼だけれど、やっぱり「意外」。
「外交・国際関係」のチャートをごらん頂ければ、私が「意外」という意味がおわかりになるだろう。
チャートは次の通り

1位「マンガ嫌韓流の真実」(別冊宝島)
2位「韓国人につけるクスリ-韓国・自覚症状なしのウリナライズムの病理」(中岡龍馬・オークラ出版)
3位「街場のアメリカ論」
4位「マンガ中国入門-やっかいな隣人の研究」(ジョージ秋山・飛鳥新社)
5位「驕れる白人と戦うための日本近代史」(松原久子・文藝春秋)
6位「『反日』解剖 歪んだ中国の『愛国』」(水谷尚子・文藝春秋)
7位「がたん ごとん がたん ごとん」(安西水丸・福音館書店)
8位「国売りたもうことなかれ 論戦2005」(櫻井よしこ・ダイヤモンド社)
9位「『ヨーロッパ合衆国』の正体」(トム・リード・新潮社)
10位「新・ゴーマニズム宣言スペシャル台湾論」(小林よしのり・小学館)

7位の安西水丸さんの本は「読んであげるならゼロ歳から」とある福音館の絵本だから、このランクに入っているのは何かの間違いだろう(もしかすると「ゼロ歳から読み聞かせる国際関係論」なのかもしれないけれど・・・まさか水丸さんが、そんな本を)
一瞥しておわかり頂けるとおり、これらはほぼすべてが「愛国本」あるいは「排外本」というカテゴリーに類別可能である。
私の『街場のアメリカ論』も、表層的には「アメリカへの悪口雑言」に満たされているわけであるから、ある種の「排外本」に区分される可能性はあるが、私のもともとの興味は(私自身を含めて)反米的なメンタリティが醸成される日本人の心理の成り立ちかたを分析的に考察することにある。
他の本を読んでいないままに批判的なことをいうのは失礼だけれども、表題を見る限りでは、著者たちが彼ら自身のエクリチュールを無意識的に統御している「不可視の構造」の解析に知的リソースを優先的に備給している場合に採用するタイトルであるようには思われない。
まわりくどい言い方をしてすまない。
要するに、彼らが「他人が間違っていること」を論証するために割いているのと同程度の知的資源を「自分が間違っている可能性」を吟味するために割いているのかどうか、タイトルからは懐疑的にならざるを得ないと申し上げたいのである。
すこしもわかりやすくなっていないが、本を読んでないんだから、これ以上ストレートな物言いは控えねばならない。
いずれせよ、本を買う人たちはタイトルを見ただけで「だいたいこんな本だろう」と当たりをつけて買うわけであるのだから、タイトルをつけた方々が「どういう本であると思わせたがっているのか」についてなら私も判断することが許される。
その上で申し上げるが、「このような思わせ方」をすれば本が売れると本の送り手たちが信じていられる日本の刻下の知的状況を私はたいへん遺憾に思う。
隣邦の各領域にできるだけ多くの知友と支持者を確保しておくことはわが国の安全保障上の要諦であり、国益を増大にもっとも資する政略であると私は信じている。
私のその感覚からすると、これらの「情緒喚起型」の書物がいったいどのような外交的利益を今後私たちの国にもたらすものなのか、私にはほとんど理解が及ばないのである。
このような本ばかりが売れるということは、私のようなタイプの功利主義者は遠からず「非国民」とか「売国奴」とか「中韓の第五列」とか呼ばれるようになるということであろう。

『街場のアメリカ論』を送ったら母から感想のファックスが届いた。

「二日かけて読み終へました。私にもよくわかるアメリカ論でたいへん勉強になりました。『ナルホド・・・』といろいろな疑問が次々と解けて、『ソーユーコトダッタンダ』と胸のつかえが取れたというか眼からウロコというか。私は世界史を戦争中で殆ど勉強していなかったので、とても面白かったです。」

母上、どうもありがとうございます。
79歳になる母が読んで「よくわかる」という感想はありがたい。
『ためらいの倫理学』を送ったときに当時89歳だった父が「なかなかまっとうな考え方だと思います」と書いてくれたこともたいへん心強かった。
「親に読んでもらってご納得いただけるような本」を書くということは私がものを書くときの基本的な条件のひとつである。
それは親たちの政治思想や信教や価値観の「枠内」で書くということではない。
私は両親とは政治的思想を異にするし、宗教についての考え方も違うし、家族観や社会観も必ずしも一致しない。
けれども、人間の個別的で多様なあり方をひろびろと包括する「人間性」という上位の整序があることを私は信じている。
だから私が『街場のアメリカ論』をいちばん読んで欲しいのはアメリカ人にである。
彼らがどういう感想を語るのか、私はそれをぜひ聴いてみたい。
もしアメリカのナショナル・アイデンティティの奇妙な成り立ち方について、少しでも内省的になったことのあるアメリカ人がいれば、この本のうちの何頁かは共感をもって読んでもらえるような気がする(無理かもしれないけど)。
あ、それから今日中に400マンヒットに達しそうですので、「4000000」を踏んでしまった人はその画面を何らかの仕方で保存してください(なんかやり方があるらしいけど、秘書が300万のときに書いていますので、それを読んでね)。わからない方はそのまま画面をプリントアウトしてくださってもいいです。
前後賞含めて3名さまに「ネコマンガ入りウチダ本」お好きなものを贈呈いたします。
たぶん今日の夕方6時頃に400万のカウンターが回るんじゃないでしょうか。
うっかり誤字訂正なんかしているときに自分で踏まないように注意しないとね。
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