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2005-09-08 jeudi

ハリケーン報道で銃社会の危険について書いたら、TBでいくつか銃社会の「利点」についての言及があったので、アメリカにおける銃の問題について、もう一度基礎的なデータだけ共有しておきたいと思う。
前回書いたように、アメリカの銃登録数は司法省が把握しているかぎりで2億2千2百万丁(ただし、民間人の所有のみで軍隊警官の所有する銃は含まない)。
もちろん密輸や闇ルートで入手された銃も含まれない。
公式統計だけで一人あたり1.2丁の銃保有率。
製造業者は約1000社、製造台数は一日9000丁。国内生産だけでは追いつかないので、毎日10,000丁の銃が海外から輸入されている。
銃による死者は年間3万人。銃による犯罪は年間60万件。
銃規制の動きは90年代から活発になって93年には銃購入に5日間の待機期間を設けて、その間に警察が素行調査を行って所有者の適性をチェックする時限立法ブレイディ法が導入されたがすでに期限が切れて失効している。
ブレイディ法は重罪の前科のある者、精神疾患のある者、麻薬中毒者、未成年者への銃の販売を禁止したのであるが、これがアメリカ人の人権感覚になじまなかったらしい。
94年には19種類の攻撃型マシンガン(殺人にしか用途がない銃)の民間人への販売を禁じる時限立法が制定されたが、これも失効。
アメリカにおける銃規制反対の最大の圧力団体はNRA(全米ライフル協会)。
NRAは権利章典に基づく「武装権」をあくまで主張している。原理的にこれに反論するためには建国の理念にまで遡ってアメリカにおける「武力」の意味を問い返す必要があり、これに対してはつよい心理的な抑圧が働いている。
コロンバイン高校の乱射事件、ワシントンでのライフル魔事件など受けて、新規購入の銃について線条痕を登録する(つまり銃一つずつの「指紋」を登録する)州法を定めるところが出てきたが、共和党とブッシュ大統領はこれに反対。
理由はプライヴァシーの侵害のおそれがあるから。
銃メーカーに対する製造物責任訴訟でも敗訴が続いている。
たとえば攻撃型マシンガンなどは目的が殺人しかないが、あるメーカーはこれにさらに銃把に指紋が残らないような特殊加工を施してそれをセールスポイントにしていた。このマシンガンによる乱射事件の被害者たちがメーカーに対して製造物責任訴訟を起こしたが敗訴。
銃メーカーに対する相次ぐ損害賠償請求に業を煮やしたいくつかの州では「銃メーカーについては製造物責任を免除する」という州法を制定た。
テキサス州ではブッシュが知事だった時代に銃メーカーの製造者責任を免じる州法を制定されている。
罪を犯すのは銃ではなくて人間である。だから銃規制は無意味だというのがNRAの主張である。
人間をどう規制すべきかについてNRAが何を考えているのかは知らない。
アメリカの銃規制がうまくゆかない理由は大きく二つある。
一つは「武装権」という憲法に由来する原理が存在すること。もう一つは銃製造業者、NRAの「ガン・ロビー」が議会に圧倒的な影響力を行使していること。
原理とビジネスが結びついてる限り、今後もアメリカの銃は増え続けるだろう。
それによってアメリカ社会が住みよくなり、より安全になるという見通しに私は同意しない。
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