夏が終わる

2005-08-29 lundi

朝起きてドアをあけると涼しい風が城山のほうから吹いてくる。
もう夏も終わりだ。
無事、歌仙会が終わる。
ドクター、ウッキー、I田先生、大西さんと、下川社中の合気道「閥」のみなさん、どなたもたいへんお上手になられて、私も7年くらいのアドバンテージではうかうかしていられない。
能のお稽古では「謡10年仕舞3年」といって、そこそこかっこうがつくまでには謡の方がずっと年数が要るとされているのであるが、若いかたたちの難しいはずの謡の進捗ぶりに驚く。
ドクターと大西さんの謡ははじめて拝聴したが、感心。たいしたものである。
朝の10時半から始まって、終わったら4時過ぎ。
その間、私は素謡『蝉丸』と『吉野天人』と仕舞3番と囃子以外はずっと舞台上。
最後にハイスピードで『土蜘蛛』の地謡を謡いきってからそのまま『高砂』の「千秋楽は民を撫で」を附祝言に雪崩れ込む。
能の舞台を見ていたころに、この最後の番組が終わってからの附祝言がほんとうにかっこよくて、「あれ、いつかやってみたいなあ」と念じていたのである。
打ち上げで軽くビールを頂いて、下川先生のゴルフ話能楽界バックステージ話に興じたあと生酔いで帰宅。
さすがにぼろぼろに疲れていたので、何する気力もなく、とりあえず下のコープで肉を買ってきて、ステーキにして、そのまま寝ころんで『アナコンダ2』を見る。
すべて「お約束通り」というたいへんハート・ウォーミングな映画であった。娯楽映画はこうでなくちゃね。

新聞に、外務省がアメリカで世論調査をしたらアジアのパートナーとして「中国」を選んだ人が激増、「日本」を選んだ人が激減・・・という記事が出ていた。
「アジア地域の中で最も重要なパートナー」はどこかという設問に「日本」と答えたアメリカ人は全体の48%で17年連続1位。だが、前年比17ポイント減と過去最大の減少。一方、「中国」と答えた人は38%で、前年比14ポイント増で過去最大。日中両国の差は前年の41ポイントから10ポイントに急激に縮小した。
中国を選んだ理由では、大半が挙げたのは「経済成長の可能性」。
一方、欧州やアジアの8カ国・地域について「米国と価値観を共有しているか」を質問したところ、日本は英国、ドイツに続いて3位となり、7位の中国を引き離した。
日米関係を「極めて良好」か「良好」と答えた人の割合は83%と過去最高を記録。今後の日米関係も「良くなる」「変わらない」とする回答が全体の9割を超えた。
このアンケート調査について外務省は「日米関係は変わらない」と楽観的に総括しているようだが、私はそれほど楽観的にはなれない。
このアンケートが示すのは、日本は「アメリカと価値観を共有するけれど、あまり重要ではないパートナー」として認知されているということである。
以前に用いた外交関係四分法をもう一度使うと、外交的関係には「強い敵/弱い敵/弱い味方/強い味方」の四種類がある。
戦後一貫してアメリカが日本に要求してきたのは「弱い味方」というポジションである。
日本の保守の一部は「強い味方」(軍事的独立をふまえた対等のパートナーシップ)の地位を求めており、左翼は伝統的に「弱い敵」(軍事力も外交力もないが、アメリカの世界戦略に協力しない)であることを志向してきた。
左右両翼のあいだで綱引きがつづいた55年体制は両方の勢力が相殺されて「弱い味方」というアメリカにとってもっとも好都合な地位がキープされた。
それでも中国とロシアと北朝鮮という社会主義圏が肉迫している限り、極東では日本のサポートはアメリカにとって戦略的に不可欠のものであった。
しかし、プーチンとブッシュの利害がかつてなく一致し、“留美派” が政府中枢を占める中国がアメリカに急接近し、北朝鮮の無害化プロセスが進行中となると、日本のサポートの戦略上の重要性が相対的に低下することは避けがたい。
そのことがはっきり現れたアンケート結果であると私は思う。
このまま米中関係が大過なく進展した場合、1,2年後には中国が「アメリカにとって極東で最重要のパートナー」となり、大事な話はすべて日本の頭越しに北京とワシントンの間で取り決められ、日本は「蚊帳の外」に置かれるようになるだろう。
「蚊帳の外」もなにも、日本にはもともと「アメリカ抜きのアジア戦略」なんかありはしかなったのである。
今の日本の政界に「アメリカ抜きのアジア戦略」を展開できるような構想力をもった政治家はもう一人もいない。
悲しい話だけれど、このまま事態が推移すれば、日本はアメリカの「アジアにおける51番目の州」程度の外交的存在感しか持たない国になるだろう。
そのことを私たち日本人より先にアメリカ人が気づいているということに日本人は気づいていない。
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