深層筋とラガーとvaio

2005-07-17 dimanche

まだ痛む足をひきずって二週間ぶりの合気道へ。
「風が吹いても痛い」「猫が歩いても痛い」といわれる最悪の状態にまでは今回の発作は至っておらず、とりあえずは足の親指をひどく突き指した程度の痛みまでで収まった。
エアサロンパスで冷やしながら2時間半のお稽古をなんとかもたせる。
前夜、安田登さんの『ブロードマッスル活用術』(『秘伝』を見てゲット)というDVDを見て、いろいろと自得するところがあった。
これまで「体幹部の筋肉」とか「内臓を支持する筋肉」というようなアバウトな名称で指示していた筋肉の位置や機能について知識を得たので、さっそくすぐに応用して、「大腰筋を手でコントロールする転換」というものを試みてみる。
おお、これはうまくゆくではないか。
大腰筋というのは、腰椎から骨盤の内側を抜けて大腿骨までを結んでいる大きな筋肉の束である。
こういう腹腔の内側に沈んでいる深層筋はなかなか「これ」として感知することがむずかしい。
しかし、実際に足捌きで方向転換に使っているのはこの深い筋肉の方なのである。
この深層筋のコントロールができると、甲野先生がよくバスケットやサッカーの「抜き」のときにやっているような、ある方向に身体が倒れ込みながら、違う方向に足が出て、瞬間的に方向転換するという芸当もできるようになるはずである(と甲野先生はご自身で説明されておられた)。
これができると、体術の術技が飛躍的に向上することが期待されるのである。
というわけで、しばらくは「コヒーレンス合気道」に加えて、「ブロードマッスル合気道」を研究するのである。

お稽古のあと、パソコンの管理について秘書に叱られたことは昨日報じた通りである。

そのあと、ひさしぶりに三宮にでかける。
神鋼コベルコ・スティーラーズのみなさんと内田ゼミ4回生の諸君との「合コン」なのである。
スティーラーズ側メンバーは平尾剛史さんにリクルートしていただく。
もとはといえば、うちのエナミくんが卒論にラグビーを取り上げるというので、「お、ラグビーか、いいなあ。先生は神鋼の平尾選手とは友だちなんだ。よかったら紹介してあげよう、ははは」とつい口走ってしまったことに始まった話である。
有名人と一回名刺交換したくらいで「あ・・・君ね、彼とはねよく飲むんだ、ははは」というようなふかしをこくのは弱い人間には誰にもありがちなことである。
ウチダもその点では凡夫の一人である。
青山さんのご紹介で一度ご飯を食べただけの平尾選手を「旧知の人」のごとく学生にむかって語って見せたのが運の尽き。
聞きつけたゼミの他の学生たちが「わたしもわたしもわたしも」と雪崩打つように攻め寄せてきた。
今さら「や、ごめん。そんな失礼なことを頼めるほどよく知っている人じゃないの・・・」と告白するわけにもゆかず、引っ込みがつかなくなったまま平尾さんに「どうか私の顔を立ててください、わーん」泣きついた。
かくして、瓢箪から駒、もののはずみで、スティーラーズと内田ゼミの合コンというイベントがここに実施されることになったのである。
まことに人間どこでどのような「もののはずみ」に巻き込まれるか予断を許さない。
双方6−7名の参加ということで、スティーラーズからは真っ黒に日焼けした元気いっぱいの若手ラガーメンが、本学からは「賢く見えるようにできるだけ黙っていること」「肌を露出する服は御法度」とさんざんウチダに脅されたゼミ生たちがメイクに気合いを入れて登場。
若者たちを紹介したあと、私と平尾さんは「添乗員」の仕事はこれでおしまい、ではあとは若い人同士でほほほ・・・ということでカウンターに移ってビールやワインなどをいただきながら、「こっちの話」に耽る。
カウンターにはなぜか「あら、先生奇遇ですね!」と私たちの登場を予見していたかのようにウッキーと谷尾さんが座っていて、なぜか色紙とサインペンまで用意して「平尾さん、サインしてください」とにじりよってくる。
そこにさらに汐ちゃんとPちゃんまで現れて、Re−setはいきなり「身内貸し切り状態」となったのである。
平尾さんを囲んで一同歓談すること4時間半。
平尾さんはいま眼の奥の骨を痛めて、ラグビーの方はコンタクトプレーの練習を控えておられるのであるが、このせっかくの休養期間に武道の身体運用をご研究されるべく合気道のお稽古に参加されることとなった。
喜べ諸君、多田塾甲南合気会はジャパンの輝ける俊足ウイング平尾剛史選手を道友としてお迎えすることになったのである。
国際的なレベルのアスリートと直接触れ合って体術を練るというのは同門の諸君にとってはどれほど得難い経験になることであろうか。
これももとをただせば青山さんのご厚情、さらにもとをただせば江さんのご登場、そのもとをただせば内浦くんの男気、そのもとは増田くんのひとこと・・・と運命は糾える縄の如くわれわれを宿命的なまじわりのうちへ導いて行くのである。

明けて夏休み第一日。
まず3時間かけて家の中をお掃除。
治ったはずのパソコンがまた壊れた。
症状は同じで、秘書が「貞子」と名付けた奇怪な濃緑色の霧がディスプレイを覆い尽くし、午前中に書いた原稿がしばらくデスクを離れて戻ってきている間に消えていた。
困ったものである。
早速秘書の携帯メールに「救難信号」を送る。
押っ取り刀で駆けつけた秘書はパソコンを一瞥するや「どうもこれはお疲れさまということのようですね」と診断を下す。
と聞いて、私は「じゃ、新品買いに行きましょう」と早速腰を浮かす。
私はなぜか問題を「金で解決」ということになると、とたんに元気になるのである。
池上先生は「悩み」と「問題」の違いについて、自分の努力ではどうにもならないものを「悩み」、自分でどうにかできるものを「問題」と定義されている。
かつて池上先生は知人に数千万円を貸したが返してもらえないときに事業の資金繰りに苦しむことになった。
これは「悩み」である。
「お金返して」と言っても、向こうに返す気がないならどうにもならないからである。
そこで池上先生はどうしたかというと、事業を止めてしまったのである。
そうすれば次は「明日からどうやって食べて行くか?」という「問題」が主題となり、「悩み」は雲散霧消する。
すごいね。
私もこの先賢の驥尾に付して、「貞子に取り憑かれたパソコン」という「悩み」を、「パソコン選び」という「問題」にすり替えることにしたのである。
考えてみれば、このIBM Think Centre も買って3年。
3年間のうち50%くらいの時間は通電して作動中というめちゃくちゃなヘビーユースだったのであるから、3年で壊れるのも当たり前かもしれない。
法人のPCだとだいたい2年で買い換えなのだが、私の使用はオフィス・ユースよりはるかにヘビーなのであるから、3年持っただけでも多をしなければならない。
車の中で、「じゃ、今度何買おうか?」と訊ねると、秘書の答えは「そうですね。NEC、富士通、日立というあたりでしょうか」
「ソニーはダメなの?」
「vaioはダメです。あれは時限爆弾がはいっていて、ある日頓死しますから」
「ふーん、そうなんだ。vaioはダメと・・・」
そして二人でサンシャインワーフのヤマダ電機にゆき、PCコーナーでブツをチェックする。
「あ、イワモトくん、これ、かっこいい。これにする」
「先生、それは買ってはいけないと言ったばかりのvaio・・・」
「やだやだこれがいいこれ買うんだもん」
「まあ・・・先生ご自身が時限爆弾のようなユーザーですから。先生が壊すのが早いか、vaioが壊れるのが早いか、いい勝負かもしれませんね、ははは」
「そうだね、はははは」
という不得要領な会話の末に、vaioのデスクトップパソコンを定価の3万円引き148、000円にてゲット。
前のIBMはたしか19万円くらいだったと思うけれど、ずいぶんパソコンも安くなったものである(今度のはHD36GBで、テレビ付き録画機能付きである)。
その19万円のIBMマシンでたぶん私はその数十倍の原稿料相当のテクストを生産したはずであるから、ずいぶん費用対効果にすぐれた文房具だったことになる。
このvaioはコーヒーをこぼして虫を湧かせたりしないように注意して扱うことにする。
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