波平の夏

2005-06-30 jeudi

二つ授業を終えて、三つ目の合気道の授業に向かうべく炎天下のキャンパスを道衣を入れた大きな鞄を抱えてよろよろ歩いていたら、I田先生に見咎められて「先生! なんかお疲れみたいですね」と声を掛けられる。
ご指摘のとおり、ウチダはへろへろです。
このところ朝起きて鏡をみると、顔が「赤白まだら」になっている。
41歳のとき、山手山荘で朝鏡を見たら25歳のときとぜんぜん変わってないので「おれって、このまま不老不死かも」と思ったことがある。
お肌つるつるだし、髪の毛ふさふさだし、筋肉もりもりだし。
それからしばらくして「厄年」に三週間入院したあと鏡をみたら、見たことのない中年男が映っていた。
時間は「蛇腹」で経過するものらしい。
最近は朝起きて鏡を見て、そこに映っているのが自分であるということになじむまで少し時間がかかる。
誰なの? このくたびれきった初老の男は?
まあ、そうだよな。
あと三月で55歳だし、55歳っていったら源氏鶏太のサラリーマン小説の時代だと「定年退職」の年だもの。
だいたい『サザエさん』の磯野波平さんて「54歳」なんだよ。
知らなかったでしょ。
そう、おいら「波平さん」の年なんだよ。
考えてみると、マンガ読んでるときに、登場人物のどの人に「同年齢」的な同一化をしていたかを考えると、子どものころは「カツオくん」というのは「年上のお兄さん」だった。
それがふと気づくと「マスオさん」と自分を同一化していて、ある日気がつくと「波平」になっていた。
哀号。
でもまだ4週間「おつとめ」が続く。
果たして生きて夏休みが迎えられるのであろうか(というフレーズを毎年この時期になると書いているが、今のところは毎年生きて夏休みを迎えている。今年もそうだとよいのだが)。
スケジュール帳の8月9月はまだ余白がかなり残っている。
この「余白」の間のどこか一日でよいからプールサイドでピナコラーダを喫しつつビーチボーイズの All Summer Long なんか聴いて「ふにゃー」としたいものである。
今年はハワイにもバリ島にもゆく予定がない。
朝、浜松のスーさんから、8 月末に城崎温泉にゆくので、途中で寄っていいですか「鰻の白焼持って行きます」というメールが来た。
「一緒につれてってください。温泉麻雀」とご返事メールを打つ。
でもきっとこの夏休みもずっと部屋にこもって原稿書いたりゲラの校正したりしているうちに終わってしまうんだろうな。
波平の夏は。
--------