Taubさんに聞いた「儒教圏」構想

2005-04-23 samedi

カナダの方からメールを頂いた。
先日「チャイナ・リスク」について私が書いたものを読まれて、地元紙で報じられたある記事の内容と通じるものがあるように感じたと書いてあった。
どんな記事ですかとお訊ねしたら、コピーをお送りくださった。
4月18日の Vancouver Sun 紙の記事(by Jonathan Manthorpe)で、Lawrence Taub という「未来学者」の 書いた « Sex, Age and the Last Caste » という書物の書評である。
興味深い箇所のみ訳出してみる。

「Taubは2020年までに『儒教圏』(Confucian Union) と呼ばれるもの(中国、再統一された南北朝鮮、台湾および日本)が世界最大の経済的・政治的ブロックになるだろうと予測している。
最近の新聞のヘッドラインを読む限り、この予測は愚かしいものに思える。
例えば、中国では政府の情報員と治安当局によって注意深く組織されたデモ隊が日本に対して敵意の声をあげているところである。彼らの目には日本は60年以上前にアジアに対して行った軍国主義的侵略行為にたいして適切な謝罪を行っていないものと映っている。
かつて日本の苛酷な支配を受けた植民地であった韓国は中国の反日感情に共感を示している。とはいえ、私的な会話では、韓国の人々は暴走する中国のナショナリズムと日本軍国主義の復活の対立に巻き込まれることに不安を感じている。
一方の日本はアジア諸国の怒りに無反応である。第二次世界大戦後に締結されたさまざまな条約によって過去の行動とのあいだに一線は画されていると主張して譲らない。政府の公式見解によれば、そのことは過去60年間の日本の平和主義的なふるまいによって検証されるべきものである。
中国は台湾がもし北京の主権を拒否することがあれば、この孤島を侵略する用意があると恫喝を加えている。
その後景には北朝鮮の問題が覗いている。核兵器開発への決意と、権謀術数入り乱れるキム・ジョン・イル体制の瓦解を示す徴候の増大。その帰結は予断を許さない。
Taubはこの短期的にはきわめて寒々しい光景に目を止めるべきではないと告げる。
「敵同士はほとんど一夜にして同盟者となる」とTaubは “Asia Times” とのインタビューの中で語っている。彼の学説がアジアの有力者たちの想像力を惹きつけてから以後、各国のメディアからTaubへのインタビューが続いているが、その中の一つである。
Taubが指摘するのは独仏関係である。第二次世界大戦後十年もたたないうちに独仏両国は今日EUと呼ばれることになった組織の建設に着手した。
極東諸国をつなぎ止めている儒教文化と精神的な結びつきは、彼らを対立に向ける力より強い。Taubはそう主張する。
激動の過去と長引く不和にもかかわらず、この三国は同一の文化的言語を語り、その経済の結びつきはますます深まっている。去年、中国はアメリカを抜いて日本の最大の貿易相手国となった。
日本と中国は一本のロープで繋がれたふたりのアルピニストに似ている。
Taubによれば、『儒教圏』の構築に至るドミノ倒し的展開の最初に倒れるドミノ牌は南北朝鮮の再統一である。1945年に分断された国が再統一へ向かう動きは来年には強化し、2007年に南北朝鮮は統一されるとTaubは予測している。
この地域の統合へむかうドミノはすでにかなり並べられてきている。投資、製造、貿易における結びつきは地域的なネットワークを構築しており、もはや『…製』ということがそれがどこで設計され、どこで製造されたのかの指標としては機能しなくなっている。(…)
Taubがもし正しければ(彼はマクロ歴史学的な与件を綜合して、70年代には来たるべきベルリンの壁の倒壊とイランにおけるイスラム革命を予見した)、最初のハードルは北朝鮮だということになる。いまのところ、このハードルは乗りこえ難く見えるけれど…」

というものである。
『ヴァンクーバー・サン』の方が日本の大新聞よりもだいぶ知的水準が高そうだ。
さっそくアマゾンで検索してみたが、Taubの本は残念ながら一冊もヒットしなかった。
辛抱強く探していれば、そのうち読めるだろう。
どんな人だか知らないけれど、日本のメディアや政治評論家のちまちました現状分析にくらべて、まことに気宇壮大である。
幕末や明治の政論家たちはこれくらいの「マクロ歴史的」な話が好きだった。
私もこういうスケールのお話が好きである。
保守派の論客たちには維新の志士や明治の政論家が好きな人が多いが、そのわりに彼らの話が坂本龍馬や中江兆民や宮崎滔天のスケールに達した例を私は知らない。
「リアリスト」というのは現代日本では「話がせこい」「肝が小さい」ということと同義なのであろう。たぶん。
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