ジョン・ウォーターズ礼賛

2005-03-01 mardi

さっそくジョン・ウォーターズの『ヘアスプレー』を見る。
よい映画である。
ジョニー・デップ主演の『クライ・ベイビー』と同じく、60年代はじめのボルチモアのロックンロール少年少女のひたすら脳天気な日々をどのような批評性も問題意識もなく淡々と描いている。
主演は100キロ少女のぷくぷくリッキー・レイク。
リッキー・レイクはこのあとジョン・ウォーターズの「ドリームランダーズ」のメンバーとなり、『クライ・ベイビー』にもジョニー・デップの妹役で出ている。
そのあとさらなるキャリア・アップを求めてハリウッドに移ったけれど失敗して、ホームレスになり、ホームレスだから当然痩せてしまってふつうの体型になり、その「ホームレス・ダイエット」本がベストセラーになってカムバック、ジェリー・スプリンガーとタメを張るアメリカ一低俗な「リッキー・レイク・ショー」の人気司会者となるというジェットコースター人生を送った(そのジェリー・スプリンガーも、シンシナティ市長だったが、買春容疑で失職、売れないニュースキャスターから、史上最低俗番組の人気司会者へというジェット・コースターの人である)。
『ヘアスプレー』にはウォーターズ映画の女王ディヴァインも二役で出ている。
男になると、ぜんぜんわかんないけど。
音楽は全編1962,3年のロックンロール。
『マディソン・タイム』と『レッツ・ツィスト・アゲイン』(これはご存じ大瀧詠一の『レッツ・オンド・アゲイン』の本歌)が最高。
「マッシュポテト」というステップは、最近の若い人は知らないと思うけど、タイトルバックでお兄ちゃんがひとりで踏んでいる。
すんごくキュートなステップである。
あまりに面白かったので、ジョン・ウォーターズの自伝『悪趣味映画作法』を取りだして読む(訳者は町山智浩さんの相方の柳下 “ガース” 毅一郎)。
ジョン・ウォーターズは17歳のときにディヴァインに会うんだけど、そのときの回想。
「他人に悪影響を与えるのにはもううんざりしていて、そろそろ自分にも悪影響を与えてくれるような人に会いたかったのだ。」
そうでしょうね。
そういえば、ジョン・ウォーターズのアイドルはラス・メイヤーだということ知ったのもこの本でだった。
ラス・メイヤーの『ファースター、プッシィキャット、キル、キル』(それにしても、ひどいタイトルですねえ)はジョン・ウォーターズのオールタイムベストで、この映画についてジョン・ウォーターズはこうコメントしている。

「過去15年間、ぼくは『ファースター』のリバイバルには、何十キロ遠くても必ずかけつけるようにしている。フィルムも借りて、友人と映画のスタッフには私語厳禁を言い渡したうえで無理矢理鑑賞させた。」

ジョン・ウォーターズとラス・メイヤーの対談(濃いなあ)の中で、ラス・メイヤーがセックス・ピストルズの映画を撮ることになっていた(企画だけで流れたけど)話をしている。
ジョニー・ロットン、シド・ビシャスと映画の打ち合わせをした話をラス・メイヤーから聞くジョン・ウォーターズ。
この絵柄もずいぶん濃い。
で、ぼくが一番気に入ったのはジョン・ウォーターズのもう一人のアイドル、ハーシェル・ゴードン・ルイスについてのコメント。
ぼくは残念ながらこの人の映画を観たことがない。
でも、次のコメントで、たぶんこの人のDVDがアマゾンでは買えないだろうということだけはわかる。

「ぼくはルイス氏の怪物的三部作、『血の祝祭日』、『2000人の狂人』、『カラー・ミー・ブレッド・レッド』を近所のドライヴイン・シアターで発見した。ティーンエイジのカップルが車から走り出てゲロを吐くのを見たとき、ぼくはこの監督になら死ぬまでついていけると思った。」

ジョン・ウォーターズと小津安二郎にならぼくは死ぬまでついていける。
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