原稿作成機械の最期

2005-02-19 samedi

仕事がどんどん来る。また2件新しい仕事が入ってきた。
これがビジネスであるなら、「おお毎日のように注文が入って笑いが止まらんのう」ということになる。
だが、個人営業・期間限定の物書き稼業であるから、それではというので「工場を増設して生産ラインを倍増」とか「従業員をどっと新規雇用」というようなわけには参らない。
どう転んでも指は10本、眼は2つ、一時に使える頭はイッコだけである。
一日に書ける目方にだって限界がある。
だいたい、「目方」で原稿をカウントするというところに根本的な問題があるような気がする。
しかも、4月以降は、物書き仕事のために割ける時間が事実上ほぼゼロになる。
ということは、今とりかかっている仕事は3月末日までにすべて片づけてしまわなければならないということである。
単行本の校正(まだ初校以前の生データのままのもの)が「池上本」「三砂本」「アメリカ本」とまるっと三冊分机の上に積み上げられている。
これを眼前から消去するのが急務なのであるが、「急務」に取りかかろうとすると、そのたびにアドホックな用事が入ってくるので、それをこなしているうちに一日が終わってしまう。
もちろん原稿書きはあくまで私事にすぎない。
宮仕えの身としては、その間に「自己評価委員会報告書」(4年に一度提出の浩瀚なるドキュメント)を取りまとめ、委員長報告を起草し、「読み書き能力開発プロジェクト」をウエノ先生、ナバちゃんと立ち上げ、教務関係のプロジェクトの引き継ぎをし、e-learningの実践報告を行い、ゼミ教育実践研修会で事例報告を行い、大学教育フォーラムに出席して学長に報告書を提出し、「ダウンサイジング」の具体的ロードマップを作成するなど数々の公務が私には課されている。
その間にも後期入試、大学院入試、教授会、研究科委員会などの大学業務がなくなるわけではない。
かつまたその隙を縫って確定申告を行い、「極楽スキー」のために野沢温泉に飛び、「極楽麻雀」のために箱根に走り、乞われるまま各地での講演、トークショー、対談、インタビュー、販促活動などなどに馳せ参じるのである。
そのさらに隙間に「1200字くらい、さらさらっとお願いしますよ」というような、頼む方の主観からすれば「いくら忙しいったって、それくらいやってくれてもいいじゃないですか」的な「軽作業」が「目方」で入るわけである。
破滅的な状況、と申し上げてよろしいかと思う。
で、とりあえずどうしたかというと、私は昨日一日で原稿を5本送稿した。

筑摩書房「反ユダヤ主義の歴史」書評600字、『ユリイカ』ブログ論6300字、『AERA』デトックスダイエット論1600字、 『名越本』前書き3700字、関西学院大学出版会『理』のエッセイ1200字。

もちろんこの5本の中にはある程度まで草稿ができていたものもあるが、書き上げたのは昨日である。
関西学院大学出版会の原稿は事務室のメールボックスに原稿依頼の手紙が来ているのを見て、その日のうちに書き上げた。
「原稿執筆の諾否の問い合わせ」に「原稿」で返信するというのは私の得意技の一つであるが、それくらいの「自転車操業」でないととてもじゃないけど間に合わないのである。
お断りしておくが昨日はオフの日ではなく、午後1時から6時まで大学でずっと会議をしていたのである。
大学に行く前と帰った後にこれだけ書いた。
ほんとうはあと一本『Emergency Care』という雑誌から依頼された1200字原稿も書き上げてしまおうと思ったのであるが、夜中にワイン片手にキーボードを叩いているうちに、だんだん書いていることが支離滅裂になってきたので、断念したのである。
「破滅的な状況」とさきに記したのが決して誇張ではないことがみなさんにもおわかりになるであろう。
このような状況にある人間に対して新規の仕事を依頼するというのが、どれほど「非人間的な」所業であるか、関係各位にはよくよくご周知願いたいと思う。
というわけではなはだ唐突ながら、本日2月19日を以て新規の原稿・講演・対談依頼の類はメディアの種類を問わずすべてお断りすることにいたしました。
次回の「お仕事受け付け窓口の営業再開」は夏期休業中の7月26日から9月25日までとさせていただきます。
それでは、みなさんさようなら。
--------