そのイクラ、How much?

2004-10-05 mardi

爽やかな秋晴れの札幌を後にして新千歳空港へ。
空港で時間待ちのあいだに、吉田くんオススメの「ラーメン道場」の「時計台」にてラーメンを食す。美味なり。
ホッケ、イクラ、イカの一夜干しなどなどおみやげを買い揃えて機上の人となる(おお、定型的な表現)。
大阪についたらまだ夏だった。
家に戻ると再校ゲラが二つ来ている(ということはこれからさらに本が二冊出るということである)。
本学研究所では教員の出版物については学術活動支援のために、まとめてお買い上げしてくださり、それを希望者に無料配布するというたいへんありがたい制度がある。
先日、研究所に3冊本を持ち込んで、おずおずと「まだあと二、三冊出ますけど…」と差し出す。
大学予算をウチダ個人に集中的に投じることにどれほど研究振興の意味があるのかというご批判の声が必ずや研究所委員会で上がることと思う。まことにもっともなことである。
だが、私にも言い分はある。
同僚の中で私の本を読んで下さる方々はみなさん「ウチダくんの本はタダで読めるから本屋では買わない」というきっぱりした態度を採られている。
したがってこの無料配布をやめてしまうと、100名からいる同僚のみなさまは私がどのような本を書いているか、まったくご存じなくなるという状況になる(誰が私のヨタ話を読むために私費を投じるであろうか。いつでもタダで聴けるんだから)。
私がキチガイじみたペースで本を出していることが同僚に知られないと、いずれ「ウチダくん、キミ暇なんだろ、これやっといて」というような人もなげな業務命令に遭遇しかねない。
やはり、ここは心を鬼にしても、みなさまにウチダ本を「これでもか」と無料配布させていただかねばならないのである。

荷物をほどくと、そのままバイクにまたがって大学へ。
なんとか5限の杖道の授業に間に合う。
KCハイスクールに留学しているアメリカ少女と大学にサンシャインコースト大学から交換留学で来ているオージーガール二名が杖道に参加したいと言ってくる(サンシャイン娘のうちのひとりのブランチくんは先週から合気道にも参加)。
どうも武道ブームは環太平洋一帯に広がっているようである。
武道の稽古というものは通常の physical education とは違って、礼に始まり礼に終わる。さらに初心者にいきなり「極意」から教える(だからできない)というのが決まりである。
彼女たちはそのような教授法というものに接したことがないので、きょとんとしている。
しかし、ここが異文化コミュニケーションのかんどころである。
私は不可解なるオリエンタル・スマイルをたたえつつ、「杖は存在するが存在しない。杖は道具でありかつ障害物である。身体は諸君の可能性でありかつ限界である」というようなことを述べて、少女たちにストレスを加圧する。
だが、この程度の異文化障壁でへこたれるようではなかなか他者には出会えぬぞ、諸君。健闘を祈る(でも、来週はもう来ないかも)。
夜はあつあつごはんにおみやげのイクラを「どっ」とかけて食べる。
うううう美味い。
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