集中講義終了

2004-07-24 samedi

京大の集中講義が無事終了。
いやいや、みなさま暑い中、お疲れさまでした。
みなさんも疲れただろうけれど、私も疲れた。
四日の講義を終えて、杉本先生と最後まで残ってくれた何人かの聴講生にご挨拶をしてよろよろとエレベーターを降りてドアがあいたら、そこにミヤタケが立っていた。
「おお、ミヤタケ。なんでキミがここにいるのだ」
「先生こそなんでここにいるんですか!」
なんか、同じような会話を同じエレベーターの中で二日ほど前にも交した記憶がある。
京大文学研究科のエレベーターは「どこでもドア」なのかしら。
そのままミヤタケとイタリアン・カフェでビールを飲み、パスタを食べることになる。
生酔いで熱暑の中、さらによろよろとなって芦屋にたどり着く。
さすがに疲れた。
私の与太話のどこが気に入られたのか、来年も集中講義に来て下さいと杉本先生にまたお願されてしまった。夏はちょっと懲りたので、次回は冬にしていただくことにする。
というわけで、2005年度後期の集中講義は「アメリカンホラー映画論」を予定しておりますので、ご用とお急ぎのない方は、また遊びに来てくださいね。

既報のとおり、一昨日の三日目は光岡英稔師範に来て頂いた。
“大番頭” の野上さんと “最近は京都支店長” の曽我さんに、こういう場面には必ずいる赤星くん、それに新人のヨシノさん(カメラマン)という大人数である。
5時間のワークショップであるが、まずは光岡先生をゲストにお迎えして、『徹子の部屋』的トーク。
私が

「先生の武歴はどのようなもので?」
「ほう、それで先生、ハワイにはいつ頃から?」
「王向斎というのは、どんな方だったんでしょうか?」
「『一形一意』ということの意味をもうすこし詳しくお話いただけますか?」

というような質問をさせていただくのである。
一般のみなさんが知りたいことと光岡先生が言いたいことの「ナカほどあたり」が「徹子」的司会者の立ち位置である。

トークのあとは中庭で1時間半ほど形体のお稽古。
アシスタントのみなさんはこの講習のためにお越し頂いたのである。野上さん曽我さんがてきぱきと動きを直してゆく。
しかし、どうも京大生諸君の身体はかなり破滅的に歪んでいるようである。
私もがんばったせいで太ももが痛くなる。いてて。

再び教室にもどって質疑応答。
意拳は人間ひとりひとりが蔵する潜在可能性の最大化のための体系であるということをながながと話したあとなのであるが、「K-1やプライドのリングで戦って勝てますか?」と質問が出て、光岡先生の顔に「マル子の縦線」が浮かぶ。
あのね、たとえば私が半日かけてレヴィナスの現象学についてみなさんにご説明申し上げたあとに、「何かご質問は?」とふったときに、「先生、それは大学入試に出ますか?」と訊かれたら、私がどのような徒労感に襲われるかわかるでしょ。
別に大学入試がどうでもよいことだと申し上げているのではない。
それはそれで人生の重大事である。
でも、いまは「そういう話」をしているのではない。
キミたちがふだん価値判断に使用している度量衡とは「違う度量衡」でなければ考量できない「力」があるのだよという話を半日したあとに、「で、その力はふつうの度量衡で測ると何キロくらいあるんですか?」と訊かれると、疲れるでしょ?

前に養老孟司先生から伺った話。
ある講演で、「これからはマニュアルなき時代であるから、自分で判断してゆかなければならないのです」ということを先生が2時間講演された。
そのあと、質疑応答の時間になったら、フロアから「先生、『マニュアルなき時代』を生きるにはどうしたらいいんでしょう?」という質問があったそうである。
養老先生は演壇から滑り落ちそうになったらしい。

あの話がわかってくれたんでしょうか・・・と光岡先生も一時はやや不安な面持ちであったが、そのあと杉本先生のご案内で室町あたりの割烹に繰り出しビールワインなどきこしめすと、一堂もそれなりに元気になって談論風発。二時間があっというまに経ってしまう。
光岡先生は私のその日の「ほうほう!」「おや、それで?」という打てば響くの「徹子風」受け答えが気に入って下さったらしく、「こんど、ウチダ先生と対談して、それを本にしましょうか」というご提案をしていただく。
まことにうれしいお申し出であるが、引き受けてくれる出版社があるだろうか・・・というようなことをここに書いておくと「うちでどうですか!」というようなことを言ってくる出版社があるかもしれないので、さりげなく、そうとだけ記しておくのである。
ともあれ、京大二十世紀学研究室の杉本先生、お手伝いしてくださった島さん、聴講してくださった学生院生の皆さん、助っ人に来て話題を盛り上げてくれた神吉くん、右田さん、楠田くんら「身内の皆さん」、そして光岡先生と内家武学研究会のみなさん、どうもありがとうございました。集中講義無事に終わりました。ウチダはしばらく寝ます。ぐー。
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