June Blind

2004-06-10 jeudi

まだ風邪が抜けきらない。
気候が悪いせいかしら。
じめじめしているし、蒸し暑いし。
ずいぶん長い時間寝ているはずだけれど、朝起きてもあまり爽快感がない。
日本の六月って、ほんと最低だな。
今朝も一度起きて朝ご飯を食べて朝刊を読んでいるうちにまただるくなって布団に戻る。
熱があったら学校休みたいなあと思って検温したら、36度7分。
うーむ、これでは休めない。
のろのろ起き出して、スーツを着て、学校へ出かける。
出かけに入試問題集の使用許可の手紙を投函。
このところ毎日のように、いろいろな出版社から入試問題集への使用許可願いが来る(今日だけで三通投函した)。ほとんどは『寝ながら学べる構造主義』からの引用。
去年だけで中学高校大学10数校で入試問題に使われたようであるから、たぶん2003年度で「一番入試によく出た本」のベスト10には入るであろう。
「ややこしい哲学的命題を試問題にしやすくリライトすること」があるいは私がいまのところ世間的に評価されている能力なのかもしれない。
喜ぶべきなのかどうなのか、よく分らないけれど、まあ、そういう人も必要なのであろう、きっと。

フランス語とゼミと体育の授業をする。
奇妙な話だが、フランス語がいちばん身体を使い、体育がいちばん頭を使う。
フランス語の授業は教室を歩き回り、板書し、フランス語を読み、文法を説明して90分間休みなしであるのに、体育の授業はほとんど腕組みをして無言で学生を睨んでいるだけである。
たぶんフランス語の授業をしているときよりも、合気道を教えているときの方が、彼女たちにとって何を学ぶことが喫緊に必要なのかがよくわかるからである。
ゼミのときは身体も頭もあまり使っていないで、その場にいるだけである。
でも、この「ただその場にいるだけ」という仕事は私にとってはけっこう面白い。
自分の存在がいったいこの学生たちにとってどういう意味があるのかをつい真剣に考えてしまう。
なんだかいてもあまり意味がないような気もするけど、それなりに意味があるような気もする。。
けっこういい先生であるような気もするし、まるでダメな先生であるような気もする・
よく分らない。

橋本治『シネマほらセット』を一気読み。
どういうふうに面白い本なのかは口では説明できない。とりあえず読んでいただくしかない。
たとえば、白石加代子とデミ・ムーアが競演する『ガラスの仮面』の話。

「かつてブルース・ウィリスとの夫婦共演の『レベッカ』で、タイトル・ロールのレベッカをデミ・ムーアが演じたまではよかった。そこで先代の奥様付きの家政婦に扮した白石加代子が『奥様、お待ちしておりました』と言って姿を現した瞬間、『勝負はあった』と言われて完敗してしまったデミ・ムーアであります。
 それ以来の因縁のライバルが、天才少女スター姫川亜弓と天才演劇少女北島マヤになって再度激突するのであります。『私は一度だってあの人(=北島マヤ)に勝ったと思ったことはないのよ』という姫川亜弓の劇中のセリフを読んで、思わずデミ・ムーアの全身は震えたという話でありますから、これはもう楽しみであります。
 共演は、姫川亜弓の母・大女優姫川歌子にローレン・バコール、ブロードウェイの幻の名作『紅天女』上演に命をかける往年の大女優・月影千草にキャサリン・ヘプバーン、“紫のバラの人” 速水真澄にキアヌ・リーブスという、すごいんだかいびつなんだかよくわからない豪華キャストであります。
 呼び物は、格闘派デミ・ムーアと情念派白石加代子の両ヘレン・ケラーによる劇中劇『奇跡の人』の競演で、それがあるもんだからアン・バンクロフトはこの姫川歌子役を熱望したんだそうであります。ああ、階段からゴロゴロ転げ落ちた白石加代子の言う、『見ていてください、紫のバラの人、これが私のヘレンです』のセリフを早く聞きたい、見てみたい、早くしないとキャサリン・ヘプバーンが死んでしまう。」

全編こういう話。

ジム・キャリー主演の『エデンの東』(監督・テリー・ギリアム)は「父親に愛されたいと思う息子が、父親に受けようとしてギャグを連発するのだが、ぜんぜん受けない」話。映画の冒頭は、スーザン・サランドン(母役ね)がモントレーの街を歩いてゆくあとを、猫背で上目遣いのジェームス・ディーンのまねをしたジム・キャリーが歩いてゆくのである(すごいねー)。

キャストも凝っている。隻眼隻手の怪浪人、「毛ずねの上には赤い蹴出し、黒襟をかけた白地の着物には、ラテン語でヨハネ黙示録の散らし書き、ご存じ、丹下左膳!」はこれしかないアントニオ・バンデラス。『ブラピの天下の一大事』ではデニス・ホッパーが大久保彦左衛門で、ブラピが一心太助と将軍家光の二役。

『くの一忍法帖』もすごいぞ。最後は「忍法肉鞘」を使う伊賀忍者(ジョン・マルコビッチ)と「信濃忍法羅生門」を駆使するくの一(シャロン・ストーン)のR指定のSFX死闘。監督はラリー&アンディのウォシャウスキー兄弟。

中学生たちの親たちが一堂に集められ、そこで殺し合いを命じられる『バトルロワイヤルPTA』もすばらしい。(三浦友和、佐野史郎、赤井英和、内藤剛志、香川照之、小倉一郎、佐藤B作、いとうせいこう、梅垣義明、おりも政夫、林寛子、あべ静江、片平なぎさ、坂口良子、夏木マリ、萬田久子、小林幸子、天童よしみ、柴田理恵、小林綾子、藤田朋子、戸田恵子、角替和恵・・・など 50 人のPTAの殺し合い)
そのほか、フェリーニ監督の『鉄腕アトム』、アラン・ドロン主演の『源氏物語』、吉永小百合主演の(謀図かずお原作)『へび』など、怪作満載。
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