なつかしい場所

2004-05-05 mercredi

五月の連休は毎年、京都府美山町の「哲学する木こり」小林直人・節子ご夫妻のところを訪ねて「山菜の天ぷら」を頂くことになっている。
関西に来て最初の年からうかがっているから、たぶん今年で14回目になるはずである(一昨年は父が危篤で旅行を控えていたのでご無礼したが、あとは皆勤)。
最初に美山町を訪ねたのは、るんちゃんがまだおむつをしている頃だから1983年か84年の夏である。
そのときに京都の奥山の自然の美しさと、小林家のみなさんの歓待に感激した。
小林節子さんが私のエクスワイフの中学高校の同級であり、そのご縁で始まったおつきあいである。
ウチダはどういう契機で始まったご縁であろうと、ご縁が出来た方とはご縁つながりでひさしいおつきあいを願うという主義であるので、離婚したあとも、「離婚した妻の友人」である小林家のみなさんのご友誼を失うにしのびなかったのである。
というわけで、90年に芦屋に越してきてからは、舞鶴道を走って山菜の天ぷらを食べにゆくのが連休の恒例行事となった。
最初のころはいつもいっしょだったるんちゃんも成長して東京に去り、何年か前からは私ひとりでの美山町詣でとなった。
小林家のふたりの娘さん(すぎちゃん、ゆきちゃん)も、むかしはるんちゃんとそこらへんをごろごろ転げ回っている元気いっぱいのカントリーガールだったけれど、いつのまにか年頃のお嬢様となり、大学に行ったり、就職したりで、お目にかかる機会も間遠となった。
今年は小林さんご夫妻と帰省中の次女のゆきちゃんが迎えてくれた。
最初に美山町に行った頃はまだ三十代はじめの「お肌つるつる青年」であったウチダもいつのまにか五十路を越えたよれよれおじさんとなった。
歳月の経つのは早いものである。
しかし、美山町の小林家のたたずまいは20数年前と少しも変わらない。
直人氏としんみり日本酒を酌みかわし、節子さんとゆきちゃんの作ってくれる美味の数々に舌鼓をうちながら、日本の林業について、熊の撃退法について、まむしとヤマカガシの恐怖の差異について、メル・ギブソンの身体運用について、フランスにおけるレンタカー事情について、イラク問題について、国家国旗問題について、マンション経営の困難さについて・・・終わりないおしゃべりを楽しむ。
翌日の日が傾くまでおしゃべりしてから新緑がまぶしい美山町をあとにする。
この村は私にとってはだんだんと「懐かしい場所」になりつつあるらしく、インプレッサでぐいいいーーんと加速して谷間の村落がバックミラーに遠ざかると、なんだかほろりとしてくる。
今年はもう一度秋にお訪ねして、松茸を肴に美酒を酌みかわしたいものである。
おっと、そういえば、伝言を言づかっていたのだ。

「京都の上賀茂付近でマンションをお探しの方、小林家の所有するシックなマンションがありますので、ご案内申し上げます。京都大学、同志社大学、立命館大学、京都産業大学など、ちゃりで通勤圏です。『木こりの作ったマンション』ですから、壁は布クロス、床はぶな材、猫もオッケー、アトピーやシックハウスでお困りの方にはぴったり。
2LDK48.6平米、家賃99000円、共益費12000円、パーキングあり。値段はいくらでも交渉に応じます。地下鉄北山駅から徒歩15分。委細は(有)森林工房へ。
702-2435」

京都市内に家を探している学生教員諸君、絶対オススメです。
「哲学する木こり」が家主のマンションなんて、なかなかないよん(すぎちゃん、ゆきちゃん、猫ちゃんもいるぞ)。
PS:と書いたら、朝いちばんにミヤタケからメールがきて、ちょうど京都で家を探しているところだったので、そこ貸してください!というオッファーがあった。
早いリアクションだなー。というわけで、とりあえず借り手は決まったようです。
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