養老孟司先生との対談のゲラが届いたので、さくさくと直す。
読み返すとほとんど私がひとりでしゃべっている。
そのときは養老先生の話を「へー」とか「ひえー」とか言って仰天しながら聴いていたような記憶があるのだが、どうもその「仰天」部分はほとんどカットされてしまったようである(そうだろうなー)
養老先生はまことに「恐れを知らぬ」人である。その視座が桁外れであるせいで話がまとめにくかった(というより公刊をはばかられた)のであろう。
リアルタイムで「生養老」が聞けてよかった。
合気道のお稽古にゆくとたくさん来ている。
春になると人々は「啓蟄」のように穴から出てくる。
なんだか身体がむずむずするのであろう。
みんなにこにこうれしそうにお稽古をしている。
そうか。そんなに私の教える合気道は面白いか。
よく考えたら、お稽古のあとにみんなはお花見にゆく予定なので、それでにこにこしているのであった。
お花見にゆく諸君と別れて、私は下川先生のお稽古へ。
今日は『融』の能装束をつけて、お稽古をするのである。
狩衣大口袴を着用し、冠をかぶり、面をつけると総重量は5キロ以上。うう重い。
面をつけると前は眼の穴から見て、足下は鼻の穴から見るのであるが、能舞台の5%くらいしか見えない(実際に目測を誤って舞台から転げ落ちる能役者がいる)。
その格好で二回『融』の舞囃子をお稽古する。狩衣の袖がじゃまでうまく舞扇が開けない。
下川先生に狩衣の袖の捌き方が下手だと叱られる。
なこといったって、狩衣の袖を捌きながら扇開いたことなんか生まれてから一度もないんですから、先生。「下手」って言われたって・・・(しくしく)
汗だくになってお稽古を終えてから帯刀さんの『野宮』(「ののみや」と読むのだよ)の舞囃子を見学。帯刀さんの謡はじつにつやがある。私もあと50年ほど稽古すればあれくらいになれるはずなのだが、その前に寂滅しているであろう。
家にもどるとすでに8時。
湯上がりにベランダでワインをのみながら「ひとり宴会」をする。
なにげなくテレビをつけたら名越康文先生が出ている。
このあいだ新潮社のおごりでご飯を食べたときに「テレビのレギュラーになって、ウッチャンの精神分析させられました」というお話をうかがっていたのだが、その番組である。
さっそく拝見。
ウッチャンが司会の女の子(むかし小室哲哉の歌を歌ってたシノハラなんとかというひと)といっしょに遊ぶところを数時間ビデオで撮って、そのディテールを分析するという趣旨の番組である。
名越先生の話では、ビデオを20分くらい見ただけでウッチャンという人の心理はだいたいわかってしまったそうである(こわいねー)
あ、そうか。私も名越先生に、会って20分で精神分析されちゃっていたんだ・・・
そういえば、最初にお会いしたとき、30分後くらいに名越先生、にっこりわらって「ウチダ先生も、かすってますね」と言われたことがある。
「かすっている」というのは名越先生と甲野善紀先生がご愛用の符丁で、「きわきわ」ということらしい。
「狂いすぎている人は発症しないんですよ」と続けて「はははは」と愉快そうに笑っておられた。私もつられて「わはははは」と笑ったのだが、あのときの「ウチダ先生も」の「も」はどういう意味だったのであろう。
お昼ごろに医学書院の「ワルモノ・エディター」白石さんがやってくる。
さすがに辣腕エディター。もう本が「仮綴じ」で出来ている。
すごいねー。いつのまに・・・
去年から今年のはじめにかけて朝日カルチャーセンターの東京と大阪でやった計7回の講演を刈り込んで、加筆修正したものである。
タイトルは『死と身体―コミュニケーションの磁場』。
かっこいいね。
タイトルを編集者につけてもらったのはこれがはじめてである。
「しとしんたい」でいちおう5音。(「たぃ」ってちぢめて読んでね)
イ音が続くので、タイトルを言ったあと口が両側に開いて「にい」と笑顔になるのがよろしい。
それに「死・・・」って字面は、やっぱりアイキャッチングで、インパクトあるよね。
タイトルは「あ」で始まって「ん」で終わるとよろしいということについてはプチ宴会でふたりのスーパー・エディターと合意が形成されたのであるが、なかなかむずかしいものである。
『あ、死と身体』ではどうかしら。
白石さんはタイトル付けの名人で、先日は『壁のバカ』という仰天タイトルを発表して、大受けしていた(これは「壁に向かって、『バカ・・・バカ・・・』と低くつぶやく悲しい男の物語」のタイトルだそうである)。
本体はもう出来ているのであるが、これに「まえがき」50枚を書かないといけない。
いろいろ相談して「分け組の思想」というものにする。
「分け組」というのは白石さんが昨夜京都のホテルで突然天啓を得て思いついた概念で、「勝ち組」「負け組」のほかに、「ま、ナカとって・・・」でことを収める「分け組」というものがあってはよろしいのではないか、というこれはびっくりの発想によるものである。
そ、それでいきましょう、ということになる。
詳細は本買って読んでね。
家にもどってから『通販生活』で購入した新品のお釜でご飯を炊いて、ひさしぶりに「納豆・生卵・おみそ汁」フルコースを食す。
美味なり。
お腹が一杯になったので、寝ころんで『ろくでなし Blues』の続きを読む。
ううう、面白い。
ついでに吉田秋生と川原泉も読んじゃう。
少女マンガはほんとに面白いなあ。
あ、いけない。
今日は文部科学省に出すCOLの書類を書く日であった。
泣く泣くマンガを本棚に戻して、パソコンに向かい、ぱこぱこと「官僚的作文」を起草する。
あああ、つまんねー。
でも「あああ、つまんねー」といいながら、どんどん作文が出来てしまう自分がコワイ。
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(2004-04-04 11:17)