2月24日

2004-02-24 mardi

04年度から導入される BLACK BOARD という e-learning システムの講習会に出席する。
これまでに何回か講習会があったのだが、参加できず、シラバスだけはマニュアルをみながら入力したのであるが、やり方をちゃんと習うのは今日がはじめて。
時間に行ってみると、生徒は私をいれて6人だけ。(ほかの生徒さんは原田学長、西田先生、島井先生、三杉先生、立石先生・・・「濃い」メンバーだなあ)
このシステムを開発したソフト屋さんの女性講師に手取り足取りみっちり4時間かけて、学生にどうやって課題を出したり、テストを課したり、掲示板を運用したりするのか、やり方を教わる。
なるほど、便利なものである。
一通りやり方を習ったあと
「では、実際に問題をつくってみましょう」
と講師に促されて、みんなこりこりと小テストを作る。
私も「現代思想の基礎知識」とかタイトルだけは立派なものを作って、はじめのうちはまじめに穴埋め問題や正誤問題をつくっていたのであるが、そのうちだらけてきて、「マッチングの問題」に

「次のアーティストと曲名を結びつけなさい
A:石原裕次郎 B:小林旭 C:赤木圭一郎 D:美空ひばり
1:お祭りマンボ 2:ダンチョネ節 3:霧笛が俺を呼んでいる 4:夜霧よ今夜もありがとう」

などという問題を作り始め、誤答へのコメントに「中学からやり直せ」とか適当なことを書く。
ところが、一通り終わったあとに
「では、みなさんの問題をみんなで回答してみましょう」
ということになり、顔面蒼白となる。
みなさん無言で私の問題を眺めていたが、おそらく内心では「ウチダって、ほんとに世間をなめてるな・・」という感想をもたれたことであろう。
(ほんとうなので反論できない)
e-learning はたしかにうまく運用すれば、かなり効果的に学生に負荷をかけられるだろうけれど、その分だけ教師の負荷も増えるわけで、便利になるような、仕事がますます増えるような。複雑な感想である。

へろへろになって帰宅。その足で下川先生のお稽古へ。
先日の新年会の『融』のビデオを見せられ、ここでもふたたび悶絶状態となる。
自分の横顔を画像で見せられるのは、ほんとうに切ない。
もちろんこんなことはウチダの周囲にいる諸君にとっては周知の事実なのであるが、私の横顔は緊張すると「顎が鼻より前に出る」。
つまり、あれですね。ネアンデルタール系の横顔なのだ。(アーノルド・シュワルツェネガー風の、と言ってもよいが)
「知的な横顔」というのとは無縁のプロフィールである。
おまけに緊張しているせいで、背中がまがって首が前に出て、ますます顎が強化されている。
謡は早口のきんきん声だし、拍子はひょこたんひょこたん首が上下しているし・・・
ああああああ(泣)
とても光源氏のモデルには見えん。
7年もやっているのに、さっぱりさまにならない。
泣きながら、次のお仕舞いである『巻絹』のお稽古をつけて頂く。
自分の稽古のあと、帯刀さんが野口先生の笛の会で「龍田」を吹かれて、下川先生が舞われるので、そのお稽古を見学する。
うまいなー。
よおおし、おれもこの先生の弟子なんだ。がんばらねば(というふうにすぐに立ち直る)。
帰りの車中でカーステレオからビートルズのカセットを外して、がりがりと『巻絹』の謡をお稽古をする。
このビートルズのカセットは10年くらい前に石川茂樹くんに作ってもらった Great Cover Band the Beatles という、原曲とビートルズのカバーを交互に並べたオリジナルである。
Mr.Moonlight がDoctor Feelgood の、Roll over Beethoven が Chuck Berry の、Anna が Arthur Alexander の、Kansas City が Little Richard のカバーというくらいは知られているけれど、Till there was you が Peggy Lee、From me to you が Del Shannon のカバーだなんて知ってました?
四人とも好みが違っていて、ジョンがR&B、ポールがポップス、ジョージがロカビリー(Carl Perkins のEverybody's trying to be my baby)、リンゴがカントリー(Buck Owens のAct Naturally) をそれぞれリードボーカルでカバーしてる。
今年の新春放談で、大瀧詠一先生がビートルズがあれだけヒットしたのは、アメリカ音楽の「全部」を彼ら四人がそれぞれ吸収していて、それをミックスして差し出したのがアメリカのリスナーの「ツボ」にはまったのである、というご説明をされていたけれど、ほんとにそうだ。
喩えて言えば、韓国か中国かベトナムのバンドが、「三橋三智也」と「石原裕次郎」と「筒美京平」と「高田渡」をミックスしたような音楽を日本のマーケットに持ち込んだようなものなのである(違うか)。
それにしても Till there was you のジョンのリズム・ギターはスバラシイ。(兄ちゃんはむかし「気がついている人は少ないが、ジョン・レノンのサイドギターは世界一だ」とほめたたえておられたが、まことに圧倒的なグルーヴ感)。
あと、Twist and shout が「春歌」だということも本日発見。
嘘だと思ったら、歌詞読んでみなさい。
ジョンがどうしてあれほどきゃーきゃー元気に声を出していたのか、はじめて聴いてから40年目に知る。
ビートルズは奥が深いです。
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