2月15日

2004-02-15 dimanche

ゼミのイクシマくんが一人芝居『引きこもりロック』をやるので、六甲道まで見に行く。
ゼミ生全員16名に声をかけたはずなのであるが、来たのは2名だけ(増本さんと廣瀬さん、キミらは偉い)。
ゴージャスな花束を「内田ゼミ一同より」としてお届けしたので、あとでゼミ生全員から300円ずつ徴収するから。よろしくね。
イクシマくんはゼミでは寡黙な少女なのであるが、寡黙であるにはそれなりの切ない事情というものがあるようで、一人芝居では一転して、「がおー」となっていた。
「無謀な事をしているなあ、と思います。まともな演技など出来ない私が、たった一人で舞台に上がり、芝居をするなんて。でも、やってみたかったのです。というより、誰からも役者としてお声がかからないのですから、自分でするよりしかたがないではないですか。ただ、それだけです。」
とチラシにはご説明があった。
なるほど。
キミは「こういうこと」がやってみたかったのか。
むかし、フリージャズの時代に、ファラオ・サンダースがステージでひとりでサックスを「ばおばお」吹いているのを見た山下洋輔さんが
「なるほど、こういうことがやりたかったのね」
と深く納得した、という話を読んだことがある。
そういう納得のしかたというのはある。
イクシマくんの一人芝居は「作・演出・主演」であるので、もう「イクシマ責め」というか「イクシマ地獄」状態である。
彼女をとらえて離さない強迫観念はどうやら「親」と「才能」と「美貌」にかかわる不安のようである。
なるほど。そうだったのか。
そうじゃないかな、と思っていたのだ。実は。
それが切ないほど伝わってきた。
「親」はわからないが、「才能」と「美貌」はなんとかなりそうだよ。
7月にはまた芝居をやるそうである。

ego-rock 第5弾・『美しい痙攣』7月上演予定

みなさんも、見に行ってあげてね。

いよいよ確定申告のシーズンが始まる。
毎年この時期はあまり気分がよろしくないのであるが、今年はとくに気鬱である。
年末から1月にかけて「支払調書」というものが各出版社から送られてくる。
それが半端な枚数じゃない。
こ、こんなにたくさん仕事しちゃったのか・・・
と愕然とするほどの枚数である。
つまりそれだけの金額がこの1年間に私の銀行口座に振り込まれたということなのであるが、困るのは、現在私の銀行口座にはそれだけの金額がない、ということである。
あらかたどこかに行ってしまったのである。
困ったことになった。
おそらく巨額の税金がこのあと私には課せられるのであろうが、それを払うためには定期預金を取り崩すしかない。
つまり、1年間必死で働いたのち、1年前より「ビンボー」になって私は今年度を終えるのである。
なんだか不条理な気がする。
礼記にいわく、まことに苛政は虎より猛なり。
しかし、納税は国民の義務であり、ウチダはまっとうな市民なので、国民の義務を粛々と果たすべく、確定申告初日に一気に納税のカタをつけてしまうのである。(なにしろ「経費ゼロ」だから計算は簡単なのだ)
こういうのは、あれですよ。傷口にへばりついたバンドエイドを剥がすのと同じで、一気に「えいや!」とやって一瞬ぽろりと涙をうかべ、あとは忘れるしかないです。
しくしく。

・・・・(それから2時間後)
わーんわーん(号泣)
ど、どーしてそんなに罪もない良民からむしり取るの・・・
たしかにウチダに「節税」という思想がカケラほどもないのは事実である。
なにしろ、印税と原稿料と講演料を、「経費ゼロ」で申告してるんだから。
でもほんとに「経費ゼロ」なんだからしかたがないじゃないか。
本やDVDの購入はどう考えても「娯楽」だし、まさか宴会の費用や遊び半分の通信費を「経費です」と申告することはウチダの良心が許さない。額が大きいのは東京までの旅費くらいだけれど、それだって実家に寄ったり、るんちゃんと会ったりするんだから厳密には「仕事」とは言えない。
そうやって正直に申告する人間から容赦なくむしり取り(すさまじい金額だぜ、まじで)、日常のありとあらゆる出費を「経費で落とす」自営業者には還付金、というのはなんだか話がおかしくはないか。
日本の徴税システムは、どうみても「納税者は不正直である」ということを前提にして、制度化されている。
そういうモラルハザードは結果的には納税者を「節税の工夫」の方向に押しやることにしかならないのではないか。
私のような良民だって、金額を聞いたあと、「ちっきしょー、来年からは領収書かき集めて、経費100%で申告したろか」という「アクマのささやき」に一瞬屈服しそうになったくらいである。

この現状を打開する名案を一つ思いついたので、諸賢にひとつご検討ねがいたいと思う。
国民各位が競って勤労と納税に励むようになるたいへんすぐれた方法である。
「普通選挙法」を廃止し、「制限選挙」を実施するのである。
たとえば、国税100万円以上納付の成人に限り被選挙権を与える。
有資格者でも脱税をしたものはただちに公民権停止。
日本の政治家の中には税金を払うのが嫌いな方が多い(どころか、「たいへんに多い」と申し上げてよろしいかと思う)。
税金を払いたくない気持ちを私は理解できないではない(どころか、「たいへんよく理解できる」と申し上げてもよいくらいである)。
だが、自分は税金を払い渋る人間が、他人の納めた税金の使途を決定する職務にある、というのではことの筋目が通るまい。
税金を払わずに済ませたいという欲望と、税金の使途を決定する権利が欲しいという欲望をひとりの人間が「同時に」満たそうとするのは、どう考えても無理がある。
やはりこれは「どちらか一つ」に絞って頂きたい、と(「虎より猛なる苛政」に泣く)ウチダは憎まれ口を書き綴るのである。
なんだか去年も確定申告のあとにこれとまるで「同じ話」を書いていたような気がするが・・・
--------