2月13日

2004-02-13 vendredi

科別教授会で学生の自宅学習時間をどうやって確保するか、について意見の交換がなされる。
私はけっこう学生に負荷を課しているつもりであったが、ゼミの授業評価アンケートをみると、「自宅学習をきちんとしないと授業についてゆけない」という項目が2.7ポイント(5点満点)で最低であった。
学生はよく見ているもので、「知的刺激を受けた」というのは4.7ポイントとハイレベルなのであるが、「教師の教場での態度はまじめであった」は4.2ポイントと有意な差が出ている。
つまり、ウチダのゼミは教師がふらりと教室に登場して、ろくな準備もしないでぺらぺらしゃべるだけなのだが、話はなかなか面白い。でも、学生たちはそれを笑って聞き流して、それでおしまい・・・という光景がこのアンケート結果からくっきり浮かび上がってくるのである。
こ、これはまずい。
というわけで、学生に対していかに負荷をかけて、一日数時間の自宅学習を余儀なくさせるかについて諸賢とともに知恵を絞る。
私はすべての教科で毎週アサインメント(語学は宿題、ゼミと講義では800字エッセイ)を出しているのであるが、おそらくはそれが軽すぎるのであろう。
というわけで04年度からはさらに過酷な自宅学習を課すことにした。

(1)すべての教科で毎週課題を出す(これは従前通り)
(2)エッセイはすべてBBあてにメールで送信し、ウチダがコメントをつけたものをそのままBB上で公開する
(3)専攻ゼミでは課題図書を年間20冊(半期10冊・毎月2冊)課す。
(4)ゼミ生は2週間ごとに課題図書について、その「要約」と「コメント」を2000字書いてメールで提出する(そのままBB上で公開)

BB(Black Board) というのは04年度から本学に導入されるe-learingシステムである。
そのクラスの登録者だけがアクセスできるクローズドのサイトで、課題をネット上で教師が指示し、学生はメールで宿題を提出するということができるというすぐれものである。
卒論をホームページで公開してよく分かったけれど、「卒論を世界に向けて発信する」という条件がついていると、学生たちの書くものの質があきらかに向上する。
教師だけしか読まないということになると、どうしても「甘え」が出るが、同輩たちも友人たちも家族も、誰にでも読まれてしまう・・・ということが分かると、さすがに顔面蒼白となるのである。
こんなことをすれば、たしかに教師の負荷は倍増する。(倍増ではすまぬかもしれない)
しかし、学生さんたちが「知的刺激を受けて、自主的に学習しはじめる」ということはもう現代の高等教育の現場では望んではならぬ「はかない夢」なのである。
学生たちには、手取り足取り「勉強のしかた」というものを教えてあげなければならない。
いったい中等教育では「何を教えているのか?」と、ふと深甚な疑問にかられるのであるが、こういうときに他罰的な文脈に話をのせても始まらない。
中学高校の先生がたもがんばっておられるのであろう。そしてきっと「小学校では何を教えているのか?」という疑問にとらえられているにちがいない。
その小学校の先生がたは「家庭ではどんなしつけをしているのか?」という疑問にとらえられ、その家庭ではご両親が「前世にどんな因果が・・・」とかこち顔をされていることであろう。
ひとを責めてもはじまらない。
できるところから始めるしかない。「ここ」を高等教育再建の起点にするという発想に切り替えるしかない。
こうして大学教員のしごとはどんどん増えて、ウチダの頭髪にも霜が降ったように白髪がふえてゆくのである。
しくしく。
学生諸君には「きみらが勉強してくれないと、まじめに教育に取り組もうとする教師の寿命が縮む」ということをぜひともご理解願いたいものである。
教師が長生きするためには

(1)教師が学生の教育を断念して、好き勝手にさせておく
(2)学生が「はっ」と我に返って、自主的に勉強を始める

といチョイスしかないのである。
どうか学生諸君は(2)の選択肢に向けて粛々と歩んで頂きたいと衷心より祈念する次第である。
ほんとに。
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