1月22日

2004-01-22 jeudi

21日午後1時から千里中央で「特色ある大学教育支援プログラム(COL)」のフォーラムが開かれた。
難波江先生と私は大学からの業務命令で出席。
2時間のパネルディスカッションを拝聴したあと、重い足取りで帰途につく。
足取りが重いのは、「日本の大学はダメになった・・・」という包括諦念によるのではなく、「日本には、こんなにがんばっている大学があるんだ(それにくらべてうちは・・・)」という個別的衝撃によるのである。
以下はウチダが学長に提出した報告書の末尾に書き加えた個人的コメントである。

12月のセミナーに続いて、COL関連のパネルディスカッションに二度出席したが、本学の不採択が「必然的」なものであることがはっきり分かった、という点では有意義な経験だった。
中で繰り返し指摘されているように、「メディアの大学批判と、実際に先駆的に教育改革を実践している大学の実体のあいだには乖離がある」。
私たちは自分が知っている範囲の二三の大学の実例とメディアを信じて「どこの大学もたいしたことはやっていない」という多寡のくくり方をどこかでしていたのではないかと思う。
そのような(本学を含む)マジョリティの怠慢とは別のところで、やはり着々と教育改革の努力について、全学的なコンセンサスを達成し、持てる教育的リソースを傾注して、新しいプログラムに取り組み、すでに成果を挙げてきた大学が日本全体で100校ほど存在していた。
「私たちはすでに大きく差をつけられている」という情報そのものが私たち教員のあいだで共有されていないということがいちばん深刻な問題だと私は思う。
いま本学で企てられている教育改革は、単に志願者減に対症療法的に対応して、「こうすれば志願者がふえるのではないか?」というような功利的な意図が先行し、それを教育理念と「つじつま合わせ」をするというかたちで進行している。
きびしい言い方をすれば、教育改革の「目的」は堂々たる理念なのであるが、「目標」は「志願者確保」という経営的なレベルにはりついている。
もちろんどの大学も「生き残り」をかけて教育改革に取り組んでいることに変わりはないのであるが、それでも採択事例には「四年間で学生をどこまで伸ばすか」というはっきりとした成果目標と「夢」があるように思われた。
本学の少人数教育はたしかに教育条件としては好ましいものであるけれど、それが四年間でどのような教育成果を達成するためのものかその目標値と査定方法を示せ、という工学的な問いかけを受けた場合に、私たちは返答に窮してしまう。
今回は採択を査定した側の委員の採択基準をうかがって、私が感じたのは、この採択プロセスが決定的に「教育工学的」な方法論で貫かれているということである。私たちのWGには教育工学的な配慮がほとんどなかった。この方法論に適合するかたちで申請を行わない限り、本学が採択される可能性は今後ともきわめて低いと思われる。

難波江さんもきびしいコメントをつけていた。冒頭のパラグラフだけご紹介する。

本学が「文科省のプロジェクトに乗ってどうするのだ」などと議論している間に、COL実施委員会の目的にむけて、なすべきことをなしている大学は、学内でのコンセンサスを取りつけ、それを組織全体で実行に移して、着実に教育改革で成果を上げている。しかもそうした大学は、私たちの予想を越えて、はるかに数多く存在しているのである。

まいど同じタームを使って語るのは曲がないのであるが、これもやはり「差を付けられている側が、そのことに気づかないうちに進行している二極分解」の一つの事例というべきかも知れない。

げっそりして阪急梅田に出て、アルマーニのスーツを「やけ買い」する。
その足で朝日カルチャーセンターの講演「身体と記号」。
どういうわけだか、最前列に本田秀伸さんが三宅将喜くんといっしょに来ている。
本田さんはこのあいだの小島英次-アレクサンドル・ムニョス戦の前に小島さんのトレーナーをつとめていたのであるが、そのときに身体の微細な操作をどのように記号的に表象するか、というたいへんディープな問題に直面された。
ウチダの講演にご臨席されたのは「身体を割る・時間を割る」という身体操作についてのご自身の理論を練り上げる上で、何かの参考になるのでは、とお考えになったからなのである。
それにしても、プロボクシングの世界ランカーが聴きに来てくださるとは・・・ウチダの身体論を「机上の空論」と評していた知識人諸君はゼウスの雷撃に打たれるであろう。
あとは本田さんに世界チャンプになっていただいて、ウチダ本の腰巻きに「世界チャンピオンも読んでます!」という広告を打てる日がくるのを待つばかりである。
最初は疲れてよれよれだったのだが、話しているうちに調子が出てきて、なんとか1時間半をのりきって、無事着地。
来月の「身体と倫理性」につなぐ理路がかすかに見えてくる。

講演のあとは恒例のプチ宴会。
本田さんとまさきくん、福原先生、山崎先生、中村先生の「三軸自在・三宅軍団」とウッキー、こばやん(街レヴィ派)、ワルモノ白石、スーパー藤本の総勢10名。
いつものMUSICAでビールとパスタで打ち上げる。
本田さんの話がやたら面白くて、みんな聴き入る。
やはり「フィールド」にいる人の語ることは知見の奥行きが深い。
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