1月6日

2004-01-06 mardi

恒例の「ほそかわでふぐを食べる会」。
例年は年末の行事なのだが、去年は山本画伯が個展直前で、とてもふぐなど食している余裕がない、ということで年始めに開催の運びとなった。
集まったのは山本浩二・森永一衣ご夫妻と山本画伯のご母堂(神戸女学院の卒業生で、私の母と同年である)、そして画伯のご友人ナガタご夫妻。
「ほそかわ」のふぐはうまいです。
てっさ、焼きふぐ、揚げふぐ、てっちり、雑炊をむさぼりつつ、ひれ酒をくいくいと頂く。
ああああああ(恍惚の吐息)
ふぐというのは、あまり頻繁に食べるものではない。
年に一度か二度というくらいが「ふぐの祝祭性」を維持するにちょうどよい加減である。
寒風に吹きさらされつつ、満腹のおなかをゆすりながら帰途につく。
しかし、正月からこっちずっと美食続きで、ついに体重は76キロのすこし手前まで達してしまった。もう少し痩せないと新学期が始まってもスーツが入らない。

行きの地下鉄で佐藤忠男『小津安二郎の芸術』を読む。
年末に小津安二郎全作品DVDが届いたので、映画をみては、いろいろな人の書いた小津論の本をひもといている。
この名著を読むのは二度目。最初は石川くんに薦められて二十代の終わり頃に読んだのだから、もう大昔のことである。
佐藤の描く小津の肖像もたいへん魅力的であるが、その中にすてきな言葉があった。
昭和33年、『彼岸花』の撮影中に、小津、岩崎昶、飯田心美の鼎談が『キネマ旬報』で行われた。そのときの小津の言葉。
独特のカメラワークについて論じた中で、小津は「絶対にパンしない」と言ったあとにこう続けている。

「性に合わないんだ。ぼくの生活条件として、なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従うから、どうにもきらいなものはどうにもならないんだ。だから、これは不自然だということは百も承知で、しかもぼくは嫌いなんだ。そういうことはあるでしょう。嫌いなんだが、理屈にあわない。理屈にあわないんだが、嫌いだからやらない。こういう所からぼくの個性が出てくるので、ゆるがせにはできない。理屈にあわなくともぼくはそれをやる。」

「いやなものはいやだ」と言って芸術院会員への推薦を断ったのは私の敬愛する内田百間先生である。
その百間先生は文部省からの博士号を「いらないものはいらない」と断った師たる漱石の事績にならったのである。
というわけで「今週の名言」は天才小津安二郎の

なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う。

に決定。
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