12月18日

2003-12-18 jeudi

いろいろなところから原稿依頼が来る。
たしか去年の暮れに「営業期間は終わりました」という告知をしたはずなのであるが、そのときに「専門の研究領域にかかわることについてはその限りではない」という一条を書き加えたために、「専門の研究領域にかかわる」原稿依頼を断る口実がなくなってしまった。
あまりにたくさん原稿依頼と執筆依頼がくるので、頭がパニックしてしまって、そのときの気分で「はい書きます」とか「やです」とか適当に返答している。
こういうのは社会人としてあまりほめられた態度とは言えない。
それどころか「はい書きます」と返事をしておいて、そのまま忘れているということもある。社会人としては大変に問題のある態度と言わねばならない。
身体論・時間論についてはうっかりして二つの出版社に「書きます」とご返事をしてしまった。
中島らもの「同一原稿発送事件」みたいである。
まあ、「書きます」と言っても、同時に書けるわけではないので、時間がずれれば、内容もおのずと変わってくる(ウチダの書くことは「いつも同じ」であると同時に「つねに前と話が違うじゃないか!」)からとりあえずはよいのである。
それに、もう引き受けた本が22冊だか28冊だか、本人だって覚えてないのである。
ない袖は振れぬ。
書けるものなら書くし、書けなくなったら、まあ、それはその時である。
とはいえ、ウチダは基本的に「常識ある社会人」であるし、エディター・フレンドリーを心がけているので、エディターのみなさんは、それほど心配されなくてもよろしいかと思う。
ま、なんとかなるでしょ。
しかし、関係各位のために現在のウチダの仕事状況をご連絡しておきたい。
現在最優先でしているのはレヴィナスの『困難な自由』の翻訳であり、これはいい加減に原稿を上げないと、20年にわたって培ってきた国文社の中根さんとの信頼関係に回復不能的な亀裂が生じる可能性があり、ウチダも必死である。
その次は、翻訳と並行して書いている海鳥社のレヴィナス論。すでに600枚を超してしまい、必死で削っているところである。これは間違いなく来年中には出せるはずである。
いちばん早く本になりそうなのは、平川君との『東京ファイティングキッズ』で3月には脱稿予定(これは担当編集者のイガラシさんが、「来年3月には停年退職なんで、それまでに・・」という必殺の原稿督促があって、さすがのウチダもこれには負けた)。
医学書院のケア論も「ワルモノ」白石さんの暗躍によって来年中には本になりそうである。
本願寺出版社の「持仏堂」本は、本願寺門徒1000万、700円の新書版で出しても信徒全員にお買いあげ頂ければ、私と釈先生で印税が3億円(「てことは、ベンツをダースで買えるってこと?」)という話を聞いて、ウチダも釈先生も俄然ものすごくやる気になっているから、これも来年中には本になるはず。
いまいちばん書きたいのは昨日語ったところの身体論・時間論で、これは岩波からオッファーがあったもの。3億円も捨てがたいが、岩波書店から単著を出す、というのは大学教員にしてみると胸が「きゅん」となる種類のあらがいがたい誘惑なのである。
新潮新書から出す名越康文先生との対談本も、企画それ自体がわくわくなので、早く本にしたい。
池上六朗先生との対談本は先生と会ってご飯を食べてお酒をのんでついでに三軸で身体を治してもらう、という仕事なので、ぐいぐい進行するはずである。
とりあえず2004年度はそんなもんじゃないでしょうか。
それでもう8冊。
鈴木晶先生との共訳のジジェクの『ヒッチコック・ラカン』本はもう私の方の訳はあがっているので、これで9冊。
いくらなんでも1年で9冊出して、その上「もっと」というのはご無理というものでしょう。
だいたい読む方だって、飽きるってば。
というわけで、あとの十数冊については、ウチダが生きていれば再来年以降、ということでエディターのみなさま、よいお年を!
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