12月16日

2003-12-16 mardi

専攻ゼミは「在日コリアン」が主題。
発表者の慎さんはつい最近になって朝鮮籍から韓国籍に国籍を変更した在日コリアンである。
生まれたときからずっと日本の社会で暮らし、韓国在住の親族との交流もきれぎれとなり、韓国語も使わなくなり、もう韓国への帰還という選択肢はなくなっているので「在日本」という呼称自体が現状と乖離しはじめている、彼女たち3世、4世という在日コリアン世代は日本でこれからどういう民族的なアイデンティティを保持することができるのか、という論件である。
韓国籍を保持していると、ライフスタイルは他の日本人とまったく変わらないのに、参政権がなく、外国人登録証の携行を義務づけられ、権利が制限され、義務と制限のみ過重な「在外公民」という地位に甘んじなければならない。
では帰化すればよいのか。
在日コリアンが帰化を逡巡するには理由がある。
帰化申請に際しては、個人情報のすべてを(韓国における戸籍関係の書類から始まって、預金残高まで)日本政府に提出しなければならず、申請期間に法律違反をした場合(それが駐車違反のような軽微なものであってさえ)申請は却下される。
いわば膝を屈して日本政府に「市民にしてください」と懇願することを行政は彼らに強いているのである。
そのことをあまり気にしないで乗り切る人もいるだろうし、帰化するという選択のメリットを十分理解しながらも、「かつての植民地宗主国に膝を屈して市民権を懇請する」という「かたち」に反発して帰化を断念している人もいるだろう。
ゼミにはもう一人、韓国籍から帰化した学生もいた(今日まで知らなかった)。
帰化をめぐる親族のあいだの論争や、帰化申請の心理的負荷について、当事者から実情を聞いて、いささか暗い気分になった。

なぜ、日本の行政は帰化条件をもっと緩和して、在日コリアンを日本社会のフルメンバーに迎え入れることに対するモラルサポートをしないのか。
日本の21世紀の外交政策が隣邦である韓国、中国、台湾との緊密なネイバーフッドのうえに築かれなければならないことは自明である。
その際に、朝鮮半島の政治と経済と文化に深い理解とシンパシーを有している「日本人の政治家、官僚、財界人、知識人」を日本社会がフルメンバーとして含んでいることがどれほど日本にとって貴重な外交的チャンネルとなりうるか。
彼らを無権利状態で周縁に排除することより、彼らを日本の政治的決定プロセスのコアメンバーに加えることの方が、日本の安全保障を考える上でははるかに有益であるということは誰にでも分かるはずである。

アメリカの日系市民の政治家たちに私たちはひそやかなシンパシーを感じている。かりにその中の一人がアメリカ大統領になったとしたら、私たちはそれによって日米関係はたいへん緊密なものになったという「心情的近しさ」を感じるだろう(かつてペルーのフジモリ大統領に感じたように)。
それが日米関係の安定に深く寄与するであろうということは誰にでも想像ができるはずである。
それと同じことが日韓関係でも起こりうることをなぜ私たちは想像しようとしないのであろう。
日本のアジアの植民地支配については「公式謝罪が済んでいない」「戦争責任者を探し出して処罰せよ」という形式の司法的な議論が続いているが、もし「在日コリアン出身の外務大臣」というものが出現した場合、この外務大臣に向かって、「植民地支配を反省しろ」と難詰する韓国民はいないであろう。
それはこのような国民国家による戦争と植民地支配が「均質なる・・・人」というナショナル・アイデンティティの幻想の上に成立しているからである。
その幻想がゆっくりとではあれ解体してゆくならば、「幻想が解体しつつある」という事実そのものが、日本の過去の植民地支配や軍国主義イデオロギーに対する深く徹底的な批判になっているということが、「謝罪」がありうるとすれば、それがそのもっとも実効的なかたちであるということが、アジア隣邦の人々にも理解してもらえるはずである。
問題は賠償金がどうのとか、謝罪の文言を共同声明に入れるとか入れないとかいう司法的な水準の出来事ではない。「原告」と「被告」の同罪刑法のロジックによってこの問題を論じている限り、永遠に決着はつかないだろう。
そうではなくて、多くの在日コリアンが日本社会の中心に席を占め、日本の政治的決定にコミットしているという事実そのものによってはじめてコリアンたちにとっての「戦後」は終わるとウチダは考えている。
それが帰化条件の緩和によって達成されるのか、あるいは永住者である在日コリアンに参政権を保証するというかたちで実現されるのか、その方途については議論が必要だろうが、その方向がおそらく私たちが取りうるもっともクレバーな選択であると私は信じる。

大学院のゼミは「テレビ」
デジタル放送へのシフトが何を意味するのかという論件。
これについては「おお、そうだったのか!」的発見があったのであるが、長くなるのでまた今度。
ゼミのあとはゼミ忘年会。
今回は浜松の「すーさん」が教師仲間の大坪先生、小野先生を帯同してゼミに遊びに来られた。
川崎さん、渡邊さん、江さん、谷口さん、ドクター佐藤、ナガミツくん、影浦くん、大迫力くん・・と圧倒的に男子優勢。
女子はウッキー、角田さん、江田さん、中川さん、永谷さんの5人。
「ふじや」で大騒ぎしてから、さらにイワモトくんの待つResetに二次会で雪崩れ込んで痛飲。
なぜか「合気道関係者」が多い。
谷口さん、ドクター、ナガミツくん、すーさん、ウッキー、イワモトくんとずらりと「多田塾メンバー」である。
これは別に合気道メンバーが大学院の聴講生に多いというのではなく、大学院の聴講をしているうちに、みなさん一念発起して合気道に入門せられたのである。
このようにして各界に文武両道のトレンドが形成されてゆくのはたいへんに喜ばしいことである。
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