大阪ジュンク堂のカフェ・セミナー。
大阪ジュンク堂は日本最大の売り場面積の本屋さんであるが、ここは「立ち読み(座り読み)自由」という開放的な方針で本好きに知られているところである。
このジュンク堂にはウチダ本の愛読者の店員さんがいて、彼ら彼女らのひそかな暗躍によって、私の本はかの地においては、「えこひいき」的好待遇を得ているのである。
というわけで日頃のご恩を返すべく、講演兼サイン会というものにいそいそとでかける。
主宰は人文会。
人文会というのは売れない良質の人文図書を細々と出し続けている日本出版界の知性と教養の「最後の砦」のような業界団体である。(東大出版会、法政大学出版局、平凡社、未来社、紀伊国屋書店、晶文社、みすず書房、理想社、大月書店、春秋社などなど)
そのような「教養主義最後の砦」がウチダの講演会を企画してくださるということは、私のようなものを教養主義「祖国防衛戦」に動員せざるを得ないほどに、戦線の崩壊は深刻だ、ということなのであろう。
崩れ行く日本教養主義に一臂の力をお貸しすべく、「ひとはいかにして書物と出会うのか」というお話をする(つもりが、いつのまにかK-1の話になってしまったが・・・)
このところの私の思念を離れぬ主題である「未来の体感」をどうやって構築し、それをどうやって伝達してゆくか、という話を軸に70人ほどの聴衆を前に、1時間ほどおしゃべりをする。
江さん、ドクター佐藤、釈先生、藤本さん、青山さん、大迫力くん、影浦くん、おいちゃん母子など顔見知りがたくさん来て下さったので、たいへんフレンドリーな雰囲気であった。みなさん、おいそがしいなか、どうもありがとうございました。
講演中にときどき「決めのフレーズ」というのが頭に浮かぶのであるが、それを口にすると、聴衆の方々が鉛筆を取り出してさらさらとメモをする。
ちゃんと「聴かせどころ」というのは、先方もご承知なのである。
不思議なことに、この「聴かせどころ」は、「こういうことを言ってやろう」とあらかじめ下拵えしたフレーズではない。
準備していったフレーズは、そこそこかっこいいものであっても、聴衆は反応が悪い。
しかし、話の勢いで、その場で頭に浮かんだ「決めのフレーズ」には、ほとんど一斉に反応する。
それも、私がフレーズを語り終わるより速く、つまり「ウチダが何を言っているのか、まだ未決の段階」で、鉛筆が動き出すということがしばしば観察されるのである。
ということは、この方々は、命題のコンテンツに反応しているのではなく、かっこいいフレーズを思いついて、「おお、やったば」と喜んでいる私の微妙な身体信号に反応している、ということになるのではないか。
今回、そのような現象が散見されたということは、ウチダの身体信号発信能力がそれなりに向上しつつある、ということかも知れないし、ウチダ本の愛読者の方々は、さすがに身体信号受信能力が高い、ということなのかも知れない。
講演を終えて、ネコマンガを50くらい書いてサイン会もおしまい。
その足で、新幹線に飛び乗って、そのまま東京へ。
日曜は医学書院で三砂ちづるさんと「お産」をめぐる対談である。
車窓が暗くなってきたので、とりあえずビール。
たちまち睡魔に襲われる。ぐー。
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(2003-11-08 00:00)