10月30日

2003-10-30 jeudi

昨日は芦屋川カレッジで二度目の講義。
演題は「話はそんなに簡単でよろしいのであろうか?」
80人ほどのシルバー世代の芦屋市民のみなさまのご機嫌を伺う。
午前中は総文の同僚である川村先生が国際関係について論じてくださったので、ウチダはそのあとを承けて「人口減少社会におけるほっこり人生」について熱弁をふるう。
ご婦人の聴衆がたいへんうれしそうに笑ってくださっていたのが印象的であった。
私の話はどうも中高年のご婦人に受けがよいようである。
おそらく私は本質的に「おばさん的思考」の人らしい(お、次の晶文社の本はこれでいこう。「おばさん的思考」)
「おじさん的」にも「おばさん的」にも自由に思考できる人間ということになると、コワモテの構築主義者のオトガメも逃れられそうだし。

講演のあと、勢いがついたので、白水社の「ふらんす」のために「レヴィナス論」10枚を書く。
さらさら。
「神戸のクラーク坂をのぼりつめたところにジャック・メイヨールというワインバーがあった(いまはもうない)。」
という書き出しにしたら、すいすいと筆がすすむ。
「ふらんす」編集部が求めているものとはだいぶ趣が違ってしまったが、まあ、交通事故に遭ったと思って。

昨日から土佐弘之先生に送っていただいた『安全保障という逆説』(青土社)を読む。
土佐先生はかつての神戸女学院総文の同僚の国際関係論学者である。
土佐先生の文章は明晰であるだけでなく、なんともいえないグルーヴ感がある。
16ビートの国際関係論である。
一つの命題を語りつつ、その命題が準拠しているフレームそのものを同じセンテンスの中で批判の射程に繰り込む、というような芸当は凡人のよくなしうるところではない。
驚嘆すべき批評的知性。

本日は法遊会の講演。二日続きの噺家稼業である。
こちらは合気道部のキシダくんのバイト先の法円坂法律事務所の主催のイベントである。
キシダくんがお世話になっているオツトメ先とあっては、「親代わり」の師匠としては仁義を欠くわけにはゆかない。
聴衆は大阪の企業経営者を中心にしたみなさま。
ふだんのウチダの聴衆とはいささか勝手が違うが、この機会に「神戸女学院大学の卒業生をぜひともご採用下さい」と営業活動をかねて、現在の日本の高等教育が置かれている危機的状況と、日本社会の明日についての所見を申し上げる。
講演はなかなか好評で、「別の経営者セミナーでも、今日の話を」というオッファーを二つ頂く。
へいへい、神戸女学院大学の宣伝をさせていただけるのでしたら、どちらなりとも参上いたしますですはいとご返事する。
私の原稿の上がりが遅いといらだっているエディター諸君は私がこのような地道な営業活動に邁進していることをおそらくはご存じないのである。
高校に行って大学の宣伝をしたり、サラリーマンはたいへんなんすよ。ほんと。

ぱたぱたと走って大学に駆けつけ、IT秘書のイワモトくんが研究室のパソコン3台を新しい大学のシステムに合うようにセッティングしてくださっているのを激励し(ありがとね、今度ステーキハウス国分の神戸牛ごちそうしますから)、大学院委員会を走り抜け、暮れなずむ文学館で明日から大学祭演武会のリハーサルのチェック。
私の留守のあいだに一年生がどんどん上手になっているのに、ちょっと感動。
しきりはすべてウッキー任せ。
どうもありがとね。
このお礼はいずれステーキハウスで(というわけですから国分さん、ひとつよろしく)

へろへろと家に帰り、「焼きうどん」を食しつつ、平川君から届いた「東京ファイティング・キッズ」を読む。
平川君の文章もドライブがかかってきて、論じる主題もぐいっと焦点が合ってきた。
いいなー、この感じ。
ううう、燃えるぜ。
明日は大学祭。
ウチダははじめての「説明演武」に挑む。
別に他意はない。
単に「時間があまりそう」なので、ばんばん投げていると疲れちゃうから、ネタでしのぐのである。