9月23日

2003-09-23 mardi

母校東京都立大学の英文科の博士課程の院生のかたからメールが届く。
都立大はなんだか大変なことになっているようである。
石原都知事による都立教育機関の改革が進んでいるらしいのだが、恐ろしいことは「らしい」という以上のことを大学関係者がほとんど知らないということである。
密室のうちで、大学教職員の半数のリストラを含む、改革構想が進行中である「らしい」。

アピールは

(1)このような不透明な仕方で、大学構成員の意見を顧慮せずに機構改革を進めることは民主主義に悖るということと、

(2)在学中の学生院生に対しては、入学時に「これこれしかじかの学習環境を保証する」という契約が成り立っているはずであるので、その条件を在学中に一方的に切り下げるのは契約違反である、ということ

の二点について都に抗議するものである。(http://toritsueibun.hp.infoseek.co.jp/)
趣旨にご賛同のかたは署名に参加してほしい、ということであったので、次のような留保条件をつけて賛成の署名をした。

都立大学英文学会御中

アピール拝読しました。
たいへんですね。
みなさんのご苦労はもとは言えば、私たちかつての都立大学教職員が、「こんなことをやっていたらいずれつぶれるなあ・・・」と思いながら、コストパフォーマンスを無視した放漫な大学経営を放置してきたことの歴史的責任の「つけ」を払わされていることにある思います。
今日の事態を招来した責任のなかばは、「私の在任中に事件化しなければ、いい」というふうに、大学の問題の自己点検自己改革を怠ってきたこれまでの大学構成員にもあることは否定できません。
その点を含めて、できればアピールにはひとことでも、大学サイドが「ここにいたるまで」事態を放置してきたこと、都当局からその政治的実力をゼロ査定されるほど「なめられた」教育機関に甘んじてきたことについての反省のことばが欲しかったと思います(とはいえ、それはみなさん現在の学生院生の責任ではまったくないのですが)
という個人的なとまどい込みで、学生院生の学習権を保証せよ、という堂々たる正論については共感のアピールに参加させていただきます。

神戸女学院大学文学部総合文化学科 内田 樹

国公立大学ではどこでも、人文科学系を集中的に縮小するリストラ計画が進行中である。
都立の場合は(噂を信じるならば)、英文学科の教員が39名から5名以下にまで削減されるらしい。(すごいね)
仏文は私のいたころ教員が13名いたが、英文と同じ比率で削減されたら一人か二人になってしまう。
私はこれをたいへん悲しむべきことだと思う。
経済的リターンに直結する「実学」を優先させ、人文科学を軽視する風潮を悲しむだけでなく、上にも書いたとおり、「こんなに浮き世離れしたことばかりやっていて、若い世代の知的好奇心を賦活するという長期的なマーケット育成を怠っていると、いずれ私たち自身が路頭に迷うことになるよ」ということをずっと申し上げてきたのに、学界関係者からほとんど一顧だにされなかった私自身の暗い見通しが当たったことを悲しむのである。
この専断的なリストラは都立大学だけの特殊な事例ではない。
遠からず、日本のほとんどの大学で始まることである。
そういうことにならないうちに「はやめに自己改革の手を打っておきましょう」ということを私は本学でも繰り返し申し上げているのである。