8月12日

2003-08-12 mardi

浜松の天龍中学の鈴木文夫先生のお招きで、同校の女子ソフトテニス部のみなさんに合気道の一日講習のために浜松まででかける。
曾良役は助手を勤めるウッキー。
私がどんなデタラメ話をしても、「ほおお」と感動してくれるので、ウッキーを相手にしていると、自分が賢い人間になったような錯覚に囚われる。「旅のおとも」には最適である。
浜松駅で鈴木先生と大坪先生お二人のお迎えを受けて、まずは中川屋の名物「うなぎとろろ茶漬け」を食べにゆく。
美味しい!
すっかり満足して、「もう、このまま神戸に帰っても、何の悔いもない」状態になる。

そうもゆかず、天龍中学体育館へ。
40人の真っ黒に日焼けした女子部員たちが元気な声で迎えてくれる。
2時間ちょっとの一日講習であるから、技術的なことはほとんど教えられない。
「世の中には、『よくわからない』ことがある」ということだけ分かって頂ければそれでよろしい。
ストレッチ、呼吸法、練功法をゆっくりやってから、「体軸」と「拍子」という二つの身体概念を中心に短いメニューを作る。
片手取り逆半身の「転換」と、「浮きをかけての入身」と、最後に少しだけ「入身投げ」。
「体軸」という身体感覚を理解してもらうのはなかなかむずかしい。
「浮きをかける」のもむずかしかったみたいである。
しかし、体術の要諦が身体信号の「読み合い」(多田先生が「気の感応」と呼んでおられるのはそのことである)にあり、それを「読む」身体的感受性の錬磨が「生き延びるための身体技法」であるということの道理はいくらかお分かり頂けたようである。
鈴木先生は先般浜松の寺田さんの門を叩かれた。寺田さんは自由が丘道場での大先輩わが兄弟子山田博信師範の愛弟子であるから、鈴木先生は私から見ると「兄弟子の孫弟子」に当たる。(ウッキーから見ると「従姉の子ども」である)
これを機に、浜松のみなさんが寺田さんの門下に入って、多田塾門人がどんどん増えて行くことをぜひ祈りたいものである。
ひさしぶりにびっしょり汗をかいて、中学生諸君の「ありがとうございました!」という可愛い声に送られて天龍中学をあとにする。
少しは、お役に立てたかしら。

浜松城わきのホテルコンコルドに投宿。一風呂浴びてから、いよいよ浜松市の中学の先生方とのバトルトークである。
鈴木先生と共に明日の公立中等教育を担う錚々たる顔ぶれが揃い、とりあえず生ビールで乾杯。
それから12時過ぎまで、途中で河岸を替えて、5時間余の大宴会。
先生たちが一人一人、現場での問題を提起されて、それについて私が所見を語るというかたちで談論風発。
私たち大学の教師には、現場の中学の先生たち生の声を聴く機会はほとんどない。
文部科学省の腰の決まらない行政と、メディアの偏った煽りと、家庭教育の破綻のあいだでもがき苦しみながら、明日の日本を支える子どもたちをなんとか育てたいと願う現場の先生たちの真剣な声を聴く、実に貴重な経験であった。
こういう先生たちばかりだったら、日本の未来も明るい、とウチダは思う。

それにしても、中学生たちをまとめ上げ、浜松の心ある教員たちをぐいぐいと牽引されている鈴木先生のガッツと識見と志にウチダは改めて感動したのであった。
浜松のみなさん、どうもありがとうございました。
ウッキーも多忙の中、助手役ありがとう。
実に愉快で有意義な一日でありました。