7月6日

2003-07-06 dimanche

池袋リブロ書店主宰の「甲野善紀x内田樹対談」のため日帰り上京。
今日のテーマは教育と身体技法ということなので、いきがけに12日のシンポジウムの予習もかねて佐藤学『身体のダイアローグ』と村上龍『教育の崩壊という嘘』を新幹線で読み返す。

原理的なことはいくらでも言えるけれど、学校教育にどうやって伝統的な身体技法を導入するかという具体的な問題になると、さすがによいアイディアが浮かばない。
大学の体育正課で武道を教えるというような程度のことでは焼け石に水だし、そもそも、武道の身体運用は一見するときわめて規範強制的なものであるから、うかつなひとが教えると、単なる「体育会的エクササイズ」にしかならない。
武道的身体運用をあえて「非標準的な身体技法」として教えるためには十分な理論的裏付けがなくてはすまされない。しかし、それを体系的に語れる人はまだまだ少数である。
困ったなあと思いながら会場へ。

各出版社からいろいろな方が「キック」に来ているので、あちこちに不義理を詫びつつぺこぺこ頭を下げる。(詫びついでに仕事を二つ増やしてしまった)
対談の前に『BRIO』の取材で『映画の構造分析』の書評のために少し解説させていただく。この雑誌は「著者近影」をネコマンガでOKしてくれた太っ腹なメディアである。
終わった頃に甲野先生、名越先生(学会で上京中とのこと。実にタイミングのよい方である)がおいでになる。
会場の定員は120名だったのが、180名も来てぎうぎう詰め。
打ち合わせもそこそこに2時間の対談。
対談というよりは、私が甲野先生にいろいろと話題を振ってご意見を拝聴するという感じで始まる。
お話を聞いているうちに私も刺激されて、その場であれこれと思いつきをしゃべるうちにあっというまに二時間が経つ。話したいことはまだまだいくらもあるし、せっかく名越先生も鈴木晶先生もいらしたのであるから、みんなでバトルロワイヤル的にやればさらに面白くなったであろうがそうもゆかない。

途中で、「物語の指南力」という話題で少しアイディアが浮かぶ。
『バカボンド』や『海辺のカフカ』や『BJによろしく』のような「メンター(指導者)を持たない少年が独力での成熟の階梯を登って行く」という話型がこの一二年のあいだに集中的に生まれ、それが圧倒的な支持(『バカボンド』はついに3300万部!)を受けているということには考察に値するだけの意味があるはずである。
私たちは「学校教育の再生」なんかをあれこれと議論しているけれど、当の子どもたちはもう学校にも大人にも期待をもたず、独力で大人になる方法を探し始めているのかもしれない。
そういう精神的な地殻変動が起こりつつあることをマスメディアも、そこに蝟集する批評家たちの多くもまだ感じとっていない。

対談が終わってから「ミニ・サイン会」で本を買って下さった方々にネコマンガを書きまくる。
旧友石川茂樹君、阿部安治君、上京中の "不眠" 小川さん、月窓寺の宮崎さん、西原さんらたくさんの方が来てくれた。
晶文社の安藤さんの仕切りの打ち上げで甲野先生、名越先生、鈴木先生とわいわいしゃべりまくるが日帰りなのですぐにタイムリミットとなる。(甲野先生は「校正カンヅメ」から一時退避なので、このあとまた仕事に戻られるらしい。先生も相変わらず超人的な忙しさである)
もっと話していたいけれど、後ろ髪を引かれつつのぞみの最終に飛び乗り、12時すぎにへろへろと帰芦。
企画してくださったリブロのみなさん、晶文社のみなさん、超多忙の中時間を割いて下さった甲野先生に重ねてお礼申し上げます。どうもありがとう。