6月16日

2003-06-16 lundi

14日(土)は朝日カルチャーセンターで信田先生との対談。
早起きして、新幹線で東京へ。学士会館に荷物を放り込んでから、新宿住友ビルへ。CCの担当のみなさん、信田先生におめにかかる。(CC的活動は、どこでもほとんど女性職員ばかりである。カルチャーセンターというのは企画者も受講生も主に女性であるところの文化活動なのだ)
信田先生とは初対面である。対談のお相手にご指名下さり、ウチダ本の好意的書評もしていただいているので、きちきちとご挨拶。
著書を拝読したら、信田先生と私は家族についてはほとんど同じ意見なので(「家庭というのは親密さを核にした求心的な共同体ではなく、『そこをいかに傷つき損なわれることなしに通過するか』が喫緊の問題であるような、無理解と非人情をサバイバルの手段とする、離心的な場である」)、対談といっても私は信田先生のご意見に「そうですそうです」とうなずくばかりである。
それだけでは芸がないので、最近の「気づき」であるところの「ご飯あなどるべからず」問題などについて一席。
家族についてはそこを「理想的な場」にしようと努力すべきではなく、「最悪の場」にしないことに持ちうるリソースを投ずるべきであるという結論に会場のみなさんもご同意下さったようである。
会場には甲野善紀先生、名越康文先生、フジイ、海老ちゃん@roland、各社の編集者(医学書院の白石さん、杉山さん、洋泉社の渡邊さん、角川のヤマちゃん、晶文社の篠田さん・・・)で満員御礼。
始まる前に、フジイが入口で呆然としていたので「どしたの?」と訊いたら「空席待ちだそうです」。
飛行機じゃないんだから。構わず全員押し込んでもらう。

対談のあとはインタビューが二つ。
『第三文明』と斎藤哲也さん。
斎藤さんは前にウェブ・マガジンの取材で女学院の合気道の稽古に来たことがある。そのあともあちこちでウチダ本の紹介をしてくれたたいへんありがたい「影の販促功労者」なのである。今度もそういうメディアの取材らしい(たぶん)。
いずれも近著を中心にして、ああいう本がいまどうして必要なのかについてお話する。
斎藤さんの方は『映画の構造分析』10冊お持ちになった。サイン本を「読者プレゼント」にするのだそうであるので、さっそくさらさらとネコマンガをかく。
1時間半も待たせてしまった甲野先生、名越先生、フジイ、海老ちゃんと連れだって新宿の街にご飯を食べにでかける。
今回はフジイの案内で本場のタイ料理。
ものすごい湿度と気温で、東京がバンコク化していた夜であったので、このチョイスは大正解。
トムヤムクン、海老フライ、春雨サラダ、グリーンカレーなどをビールで流し込みつつ貪り食い、名越先生の座談に笑い興じているうちに、なんだかみんなでタイ旅行をしているような気分になってきた。
フジイ、海老ちゃんは甲野、名越両先生を「生で」見られた上、その奇談を拝聴して、たいへんに感激していた。たしかにふつうのOL暮らしをしている限りでは決して聞くことのできない種類のお話ばかりである。また遊びにおいでね。
雨の中、学士会館に戻って、汗と雨でびちょびちょのスーツを脱ぎ捨て、お風呂に入ってウォークマンで志ん生を聴きながら早寝。

翌15日は11時に自由が丘の不二家書店でるんちゃんと待ち合わせ。
お昼はインドカレー(前夜はタイカレーだから、かぶらないのだ)。
食後は「お洒落なカフェ」に行って、歓談。るんちゃんにお仕事の様子などをうかがう。
別れ際に「父の日」のプレゼントとて「胡桃入りあんパン」を頂く。
ありがとね、るんちゃん。父ちゃん涙が出そうだったよ。

るんちゃんにハルクの前のバス停まで見送ってもらってから合気会本部道場で前期最後の多田塾研修会。
いつもの顔ぶれ(今崎先輩が「見学」だったので、この日ウチダは山田、坪井両先輩に引き続き「古参ベスト3」)内古閑ご夫妻も来ている。
すごい湿度と熱気で、呼吸法のときから全身から汗が滴り落ちる。
二年ぶりに膝も腰も痛くない(足首が捻挫してるけど)状態で研修会に出られた。どこにも痛みを感じずに受け身が取れる・・・(涙)この状態に戻れるとは思わなかった。
三宅先生に感謝である。
ぼろぼろになって稽古を終え、多田先生をお見送りしたあと、工藤くん、宮内くんら「多田塾研修会のあとに生ビールを呑む会」といつのも居酒屋へ。
みんな脱水状態なので、1.8リットル入りのピッチャーがあっというまに3杯空になる。
わいわい歓談しているうちに新幹線の最終が近づいてきたので、あわててみなさんとお別れしてばたばたと東京駅へ。
さらに車内でワインなどいただきつつおうちに帰る。
もりだくさんの東京ツァーでありました。
さすがに疲れが出たのか、月曜は朝から発熱。よろよろと休講の電話を入れて、あとはひたすら眠り続ける。
ずっと眠り続けて、起きたら火曜日の午前九時であった。

「私の選ぶベスト・フィジカル・パフォーマンス」に次々とメールがよせられているのでご紹介しよう。

まずはパリの小野さんから

内田 樹先生

こんにちは。大変ご無沙汰しております。
藤井麗子さんの1学年下で、上西ゼミだった小野佳奈子です。
先日、先生がホームページに書かれていた、「映画の中の人間の身体美」は、私も映画を見る時にいつも注目するポイントです。それで、ちょっとお便りしてみたいと思いました。

先生もすでにあげていらっしゃったハンフリー・ボガードと煙草。私も「カサブランカ」の中で、ボギーが左手で上着のポケットから平たい幅広の煙草入れを取り出し、そのまま片手でぱっと開いて、次の瞬間には右手で煙草を口に持っていった、あの鮮やかな一連の仕草が忘れられません。

ヒッチコックは、人が、特に女性が電話をかける仕草をとてもきれいに撮る映画作家ではないかと思っています。そんなにたくさん見ていませんが。(「サイコ」「裏窓」「鳥」「ダイヤルMをまわせ」「三十九夜」「la femme disparue(フランスで見たので、邦題がわかりません)」くらいです。)「ダイヤルMをまわせ」の中でグレース・ケリーが、受話器を耳に押し当てる仕草は、とても魅力的だと思います。(La femme disparue はおそらく the Vanishing lady 『バルカン超特急』でありましょう・ウチダ)

「スター・ウォーズ」最新作の殺陣は、先生はどうご覧になりましたか? 私はなかなか決まってるなあと、うっとりしてしまったのですが。でも一般にチャンバラものはよく知らないので、もっといいのもたくさんあるかと思います。

リリアーニ・カヴァーニの「愛の嵐」の中で、シャーロット・ランプリングがジャムをむさぼり食べるところ。ランプリングとダーク・ボガードは、ナチスの残党につけねらわれてアパルトマンに閉じこもり、外に出ると殺されるのでだんだん食べ物がなくなってくるのですが、そのあたりで出てくるシーンです。手でイチゴジャムなんか食べて、それでこんなに美しいとは何事かとびっくりした覚えがあります。(名越先生も印象に残る身体運用として『座頭市』の勝新太郎の「おにぎりを食べるシーン」をオススメでした。手でものをむさぼり食べる場面というのは、どこか私たちの心の琴線に触れるのかも・ウチダ)
(シャーロット・ランプリングですが、最近フランソワ・オゾンのカンヌ出品作 Swimmingpool を見ました。日本ではもう公開されたのでしょうか。結構面白かったです。「あれはあざとい」と思う人もあるかもしれませんが、私は、プールの水面に反射する光がなかなかきれいに撮れていて、さわやかな後味の良い作品だったと思います。)

結局なんだか月並みですが、とりあえずあげてみました。
それでは、先生もお忙しそうですが、どうぞくれぐれもお体には気をつけてください。

小野 佳奈子

はい、小野さんどうもありがとう。小野さんは今パリで博士論文の準備中の由。がんばってくださいね。