「教育トップ100校」必勝祈願委員会がある。
過去の文部省大学審議会関係の文書を読破し、「文部科学省は大学に何を望んでいるか?」という「出題者の意図」の探究に大学各学科から選抜された「子どもの頃、現国の模試でやたらに要領のよかった受験生たち」を結集する。
みんなで文部科学省発行の膨大な量の官僚的文章を眼光紙背に徹するまで読み抜いて、「正解」を探す。
その「正解」が本学の提供する教育プログラムに合致するかどうかというのはまた別の次元の問題であるが。
杖の稽古を終えて家に戻ると、四国の「史上最強の呉服屋の若旦那」守さんからお電話。
『ツインピークス』全巻のLDを所有されており、それをまとめてご貸与下さる由。
守さんて「史上最高にクライアント・フレンドリーな呉服屋の若旦那」である(私はただいま「いかり屋呉服店」に紋付きと長襦袢のお洗濯をお願いしているところなのである)。
まことに松聲館の門人の皆さんはどなたもお師匠さまに似て、人間の出来が深い。
「あれからどうなっちゃうんですか?」
という私の問いに、守さんは穏やかな笑みを浮かべつつ(電話だから見えないんだけど)
「セカンド・シリーズでは雰囲気ががらっと変わってしまうんですよね。なにしろ、ほら、デヴィッド・リンチだから、うふふ」
と私の感興をいやがうえにも昂進させるのであった。
ついでに「怪しいビデオ」もご恵与下さる由。
もちろん守さんがご恵投下さる「怪しいビデオ」は「そっち」系ではなく、「あっち」系の「妖しい」方面のブツである。
あああ、それも早く見たい。
四国丸亀方面に最敬礼。
葉柳先生が二ヶ月ぶりに「長崎通信」を送ってくれた。
先生はご自身の「葉柳第二研究室」を開設されてから、そちらにばんばん書いているので、なかなかうちのウェブ日記にはおはちがまわってこない。
今回のテーマは「ウチダは意地悪」ということと「シンクロニシティ」である。
前にも書いたことであるが、私は「頭」ではなく「身体」でものを考えている。
古諺に「女は子宮で考える」とか「オレの下半身に人格はない」とかいう深遠なものが散見されるが、これは一端の真実を衝いている。
私の場合、人格は頭脳に属し、知的活動は主に身体が担当している。
だから、やっぱり私の場合も「下半身には人格はない」のである。
私の頭脳は「けっこういい奴」である。
だから「頭脳」が統制している種類の人格的諸活動だけを徴するならば、ウチダはどちらかというと温良でコミュニカティヴな人間である。
しかし、惜しむらくは、ほとんどの知的活動は身体がこれを担当している。
そして、私の「身体」はたいへんに邪悪である。
他人を傷つけ、損ない、罵倒し、冷嘲し、ドブに蹴倒すようなことが、私の身体は「大好き」である。
私に害され、屈辱感に打ち震え、嗚咽し、涕泣する他者たちの姿を想像しただけで、心拍数が上がり、呼吸が早くなり、頬は紅潮し、お肌の色つやはよくなり、アドレナリンがばあんと分泌されてアクマのごときほほえみが満面を領するのである。
ひどい話である。
困ったことに、ウチダの頭は頭があまりよくない。
しかるに、ウチダの身体はたいへん頭がよい。
たいへんによい。
ウチダの頭をもってしては理解が届かぬことも、身体はすらすらすいすいと分かってしまうということがしばしば起こる。
例えば、レヴィナス先生のご本などは、ウチダのバカ頭をもってしては遠く理解が及ばない。ほとんど火星語で書かれた文献に等しい。
しかし、ウチダの賢い身体はそれを一読するや、ただちにその偉大さを了察して、「おい、この人に弟子入りしろ」と頭に命じるのである。
したがって、「ここ一番」という大事な場面になると、私はほとんど思考を停止して、身体から送られる「命令」に耳を傾ける「巫祝」状態になる。
だから、私が他人を批判する文章ははほぼ90%が「恐山のイタコ状態」になって書かれたものである。
繰り返し言うように、私の頭は善良なので、他人の理説をあげつらうようなことは得意ではないのである。しかし、身体はそれこそが本領である。
そして、ここからが本日の本題なのであるが、「恐山のイタコ状態」になっていると、「読んだことのない本」の内容が分かり、「会ったことのない人」の器量が値踏みできるというような芸当も出来てしまうのである。
今回、葉柳先生は、「なぜ読んだことのない本の内容をウチダは知っているかのように思考できるのか? そして、どうしてそういう思考をしているときのウチダは底意地が悪いのか?」という問いを立てられていたが、これはもちろん、シンクロニシティが発動するのは、ウチダの思考が邪悪化しているときだけだからである。
私が「物書き廃業」を宣言したのは、実はこのままばりばりと批評的なテクストを書き続けていると「人格交替」が起こってしまいそうだからだったのである。
ウチダも人の子。
金も欲しいが、「いい人」でもいたいのである。
(2003-03-17 00:00)