「かなぴょん」こと林佳奈ちゃんと、東大気錬会の内古閑伸之くんの結婚式が東京會舘であった。
定宿の学士会館から青空寒風の皇居前をタクシーで式場へ。
早く着きすぎたけれど、内古閑君はもうロビーで友人たちと打ち合わせをしていた。
さっそくご挨拶して、ひとりでコーヒーを呑みつつ昨日の日記をシグマリオンでばしばし打つ。
ふと顔を上げると、硝子戸越しに、笑顔の多田先生が手を振っておられる。
先生も私と同じく気が早い。集合予定時刻の45分前にご到着である。
内古閑君といっしょに玄関前で最敬礼でお迎えする。
「いや、電車が遅れたりすると、あれだからね」と小声でつぶやいておられたけれど、多田先生も今日の結婚式にはけっこうワクワクされていて、つい早出をしてしまわれたのであろうと推察。
先生とふたりで静かなティールームでお茶する。
「先生、いい天気でよかったですね」
「うん、そうだね・・・風が冷たいけれどね」
「マラソンですかね、あれは」
「僕らはね、中学生の時に皇居のまわりを走らされたんだよ。今の九段高校だから。三宅坂下って、二重橋のまえを通って、最後が九段坂だろ。こっちは腹減ってるから、最後がきつくねて(笑)」
というような会話が静かに30分ほど交わされる。
多田先生とこういうふうに、何でもないような話をしているときが、弟子としては至福の時間である。
愛弟子かなぴょん結婚式の開始を待ちながら、恩師多田先生と東京會舘のティールームで小津安二郎的会話を静かに愉しむ。
よき師、よき弟子に恵まれたウチダの人生を凝縮するような「ワンカット」である。
ああ、なんという満ち足りた時間であろう。
結婚する二人を祝福するかのように、空は雲一つなく、皇居前の風景は先生がふと戦時中を思い出されたほどに(コアな小津ファンとして言えば『お茶漬けの味』の冒頭のシークエンスのように)、透明で静謐である。
時間となって、11階に上がる。
神戸女学院合気道会の諸君(ほぼ全員)、かなちゃんのお友だち(森君、秋枝君などその多くは私の教え子でもある)がばりばり着飾って集まっている。
雑賀君はじめとする東大気錬会の諸君も正装で続々登場。
なんだか「多田塾合宿」フォーマル版のような感じである。
るんちゃんもばりっとして登場。
一瞬、「どうして?」と不思議な感じがする。
この前神戸に来たときに三宮のそごうで結婚式用の靴を買ってあげて、「じゃ、次は結婚式会場でね」と別れたはずなのであるが、それでも多田先生と工藤君のあいだにるんちゃんの姿が見えると、その違和感に、「え、ど、どうしてるんちゃん、ここにいるの?」という錯乱状態になる。
結婚式の詳細については書いているともうきりがないから、割愛。
私は主賓としてスピーチをしたのであるが、なにしろ「この世でただひとり頭の上がらないお師匠さま」と「この世でただひとり私に面とむかって痛烈な罵倒を辞さない娘」の前でお話をするので、ふだんの調子が出ないで、ちょっと噛んでしまった。勘弁ね。
でも多田先生のお話はすばらしかったし、ヤベッチ、クー、おいちゃんトリオのフラダンスも笑えて泣けた。
とにかく愉快で気持ちのこもったとてもとてもすてきな結婚式でありました。
これほど多くの人に心のこもった祝福を受けたカップルを私はかつて見たことがない。
内古閑君、佳奈ちゃん、お幸せにね。
でも、この二人って、このあと箱根に骨休めに行ってから、気錬会の合宿に参加するんだそうである。新婚旅行の後半が合気道の合宿っていうのも、ほんとに珍しい人たちだよね。
恒例の「ブーケ・トス」ではウッキーが花束をゲット。
ほんとうはおいちゃんの手の中にすっぽり収まる角度だったんだけれど、ウッキーがすばやく反応して、横からキャッチ、日頃の鍛錬の違いを見せつけた。稽古が足りんぞ、おいちゃん。
(2003-03-09 00:00)